第80話

唯はずっと泣いていた。



「ごめんなさい。ごめんなさい。私、発達障害、なの。……自閉症、なの。うつ、にも、かかってるの。……ごめんなさい。ごめんなさい。……あなたが知ってる私は、本当の私じゃないの。ごめんなさい。……こんなになかよくして、もらってるのに、こんな私で、ごめんなさい。……これまで言えなくて、……これまで何してたかだって、可奈が聞いてこなかったのに甘えて、はぐらかして、ごめんなさい。……こんな私で、ごめんなさい」


唯は詰まった言葉の代わりにごめんなさいと言っているようだった。何度も謝られて、自分が何を告げられたのかしばらく分からなかった。



唯が、発達障害の自閉症で、うつにもかかってる。

たっぷり十五秒かけてやっとその言葉を飲み込んだ。

一年半、唯は誰にも心配をかけまいとして、誰にも助けを求めることなく一人でいたんだ。

”本当の自分じゃない”って、きっと本当の唯は今の泣き虫な唯なんだ。



ーーこんなことになるなら、無理矢理にでも理由を訊いてしまえば良かった。


一年半もの間、唯を一人きりにさせておいて、それで私は一番の親友のつもりでいたんだ。唯は私が楽しくのうのうと過ごしていた日にも消えようとしていたんだ。


いっぱしの友人でいたつもりが何の役にも立てなかったことが、何の助けにもなれなかったことが、悔しくてたまらなかった。


仲良く”してもらってる”なんていう言葉も可奈を刺した。

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