第76話
その日の帰り道、唯と二人になったところで謝った。いくら宙に頼まれたからとは言え、ーー自分が知りたかったからとは言え、話を盛り上がらせてしまったのは自分のせいだった。唯は少し困ったような顔をしてなんと返そうか悩んでいるようだった。
「ごめん唯、私があんな話題出しちゃったせいで思ったより盛り上がっちゃって……いやな気持ちになってない?」
うつむきそうになって、慌てて上目遣いで唯を見る。その実自分が嫌われていないかが心配でたまらなかった。
「いいっていいって、盛り上がったのは可奈のせいじゃないしさ、宙さんとは他の男子と比べて結構仲良く見えてただろうからいつかは誰かしらに話題振られてたと思うし。むしろ遮ってもらっちゃってごめんね、可奈がいる日だったから遮ってもらえたんだろうし正直言うとちょっと助かったよ、ありがと」
ああよかった、嫌われてない。私がいて助かったよなんて、ありがとうなんて本当はもらう資格、私にはない。それでも安堵の方が大きかった。
そしてよりはっきりと自覚した。私は唯のことが恋愛対象として好きなんだ、と。
コスメ選びにもランチにもお茶にも積極的に誘った。話が盛り上がって、色白できれいな肌だと言われて、嬉しかった。「これ可奈に超似合うよ! かわいい!」なんて言われたコスメはその日に迷わず買ってそればかり使うようになった。今ではもう同じコスメも使い切って三個目に突入している。唯にプレゼントしてもらったリップは宝物になった。使用期限があるからちゃんと使ってよ、なんて言われたがそれでも大切な日にしか使えなかった。今も部屋のコスメボックスの真ん中に宝物として飾られている。
一番の親友になれた自信がついた。
だが、それ故に分かってしまった。唯はきっと宙に好意を抱いている。
女だから誘ってもOKしてもらえた。かわいいと言われて嬉しかった。唯の好きな物だって、身につけている物だって、たくさん話してたくさん見てきたんだから知ってる。
今では唯につられてメイクもウインドウショッピングも大好きだ。唯に選んでもらった服だって毎回柔軟剤をたっぷり入れて洗って大切に着ている。
でも。それでもなんで私は女なんだろう。唯にとって私は”対象外”だからこれまでも一緒にいられたんだ。なんで私はそこに入れないんだろう。
一番近いはずが一番遠い。それが悔しくてたまらなかった。
宙がいかに唯のことを信頼していて、好いていて、大切にしているか、散々聞いてきた。今思えば相談役になったのは恋敵とすら思ってもらえないからだった。
でも、それだけ唯のことを大切に想っている人なら。大切にしてくれる人なら。
ーーそれで、唯が幸せになれるなら。
「唯、普通に好感持ってたよ」と宙に送る。
可奈は二度目の恋も想いを告げることなく諦めようとしていた。
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