第75話
「ねえ唯さ、宙君とはどんな感じなの?」
一学期の春も終わりかけている頃、いつもの女子トークに混ぜてそれとなく聞いた。
その時もう宙が唯のことを好いているのは知っていた。宙に自分の印象を聞いてきてくれないか、などと宙にしてはらしくないことを言われていた。それだけ本気なのだということが伝わってきて断るに断れなかった。
でもその頃もう既に可奈も唯への気持ちを自覚していた。結局は頼まれたからが半分、自分が知りたいからが半分、といったところだった。
「えー気になる? っていっても休み時間に話したりテスト勉強したりとかそんなくらいだよ? 残念ながらお友達で彼氏じゃありませーん」
その答えに少し安心する自分がいた。周りでは女子大生鉄板の話題にそこにいた女子全員がはやし立てているところだった。
「えー嘘だあ、絶対あれは唯のこと好きだと思うよ? ねえご飯とかいかないの?」
「確かに確かに、めっちゃいい感じだよね。何なら今誘っちゃいなよ、連絡先持ってるんでしょ?」
可奈もそう思うよねー?と聞かれて焦って答える。
「まあいい感じだとは思うけどさあ、こんだけいろいろ言って冷めちゃったり別れちゃったりしたら悪いのあたしらじゃん。絶対気まずくなるからやめとこ?」
心の奥ではこれ以上発展しないでくれ、などという醜い考えがよぎっていた。これ以上言ったら唯が自分の気持ちに気づいてしまうかもしれない。そしたら私に勝ち目なんてない。せめてまだ好きでいたい。
必死に答えた回答も「ま、男見る目ない可奈に聞いてもしょうがないか」なんて陽向にぶった斬られて机に沈んだ。
その後は延々と続く陽向ののろけ話を聞かされた。好いて、好かれて大切にされて、幸せな恋愛をしていることが全身からにじみ出ている陽向を少し羨ましく思った。
自分にそんな恋が一度もできていないことを恨めしくも思った。
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