第71話

私の方がずっと長く先輩のことを見てきたはずなのに。小学校一年生の頃から、ずっとずっと見てきたはずなのに。


先輩がどんな気持ちでバスケと向き合ってきたのか、あの男は知らないのに。

試合に負けて泣いていたことだって、その後自分と顔を合わせて強がって笑いながら「恥ずかしいとこ見せちゃったね」なんて言ったことだって、あのときロッカールームの外にいた私しか知らないはずなのに。


皆がもてはやすのとは違う。ファンクラブに入って先輩がかっこいい、と言っている他の生徒とは違う。

私はただかっこいいから先輩が好きだったんじゃない。ずっとずっと見て憧れてきて、追いかけてきて、その弱さを見て更に惹かれて、ようやくこれが恋なんだと気づいたばかりだったのに。


初恋は実らない、なんて言葉を聞いたこともある。でもこの大切に大切に、壊さないように持っていた想いをたった一瞬で、それも自分の想いを告げることすら叶わず捨てることになるとは思わなかった。


自分のそんな思いとは裏腹に、先輩は自分を見つけて笑顔で手を振ってきた。

つないでいた手を離すことも、隣にいる男から遠ざかることもしなかった。

ああ、最初から自分に勝ち目なんてなかったんだ。だって私は先輩の”範囲外”なんだから。意識されてすらいなかったのだから。


先輩にとってはきっと、”小さい頃からよくなついてくるかわいい後輩”程度のものだったのだろう。


女として、ーー恋愛対象としてなんて、最初から見られていなかったんだ。


可奈の初恋はそこで終わった。先輩は翌年そのまま卒業していった。

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