第68話

ひとりきりになった途端に不安が襲ってきた。ちょっとって何? やっぱり私はもう見捨てられるのかな。あんな優しいこと言ってくれたけどやっぱり私のこと嫌になっちゃたのかな。やっぱり”唯”じゃないといけなかったのかな。話したからこんなことになってしまったのかな。可奈とはできるだけ一緒にいたかったけどもうそれも無理なのかな。


そんな不安を抱えていると、家のインターホンが鳴った。


聞こえてきたのは可奈の声だった。


すぐにオートロックを解除する。しばらくして部屋のベルが鳴った。チェーンロックを外して部屋のドアをあけた、


と、同時に可奈に抱きしめられた。


「これまで、辛い日も生きててくれてありがとう。大好きだよ。だからこれまでも生きてて。お願いだから」


止まったはずの涙がまたあふれ出した。見れば可奈も泣き顔で息を切らしていて、その顔のままで家まで走ってきてくれたんだと思うと荒れた部屋に人を上げてしまったことも、自分がパジャマにすっぴんのままなのもどうでも良くなってしまった。


二人で抱きしめ合ったまま号泣して、それがおさまったころ二人でお互いの顔を見て笑い合った。


「ちょっと可奈、これまで見たどの顔よりかわいくなくなってるんだけど」


「そっちこそ。目擦ったでしょ。二重どころじゃなくなってるし鼻も真っ赤だし」


「そこに鏡あるから見てみ? 顔ひどいことになってるから」


「お互い様だし。ていうか親友に向かって顔ひどいことになってるってひどくない? ……あ、待ってほんとにひどい。自分が思ってたのの倍ひどい。……顔戻るまでここにいてもいい?」


「もちろん。こんな部屋で良ければ」


「部屋もまた荒らしたねえ、まあしょうがないよね。頑張った証だもんね。そんなことより唯が生きててくれて良かった」


「やめてよまた泣くからそういうこと言わないで!」


「いやだって本心なんだもん。……あ、やばい私もまた泣きそう、言わなきゃよかった」


「ごめんでも嬉しかったから聞けてよかった、私可奈が電話切ったとき見捨てられたのかと思った」


「ちょっと私への信頼なさ過ぎ、見捨てるわけないでしょうが。……ちょっと待って涙出てきたティッシュどこ」


「あの辺のどこか」


「ちょっとその辺の物どかすよ、……あったあった。もらう」


「どうぞ」


顔が元に戻ってもしばらく可奈は部屋にいた。可奈なりに自分を気遣ってそばにいてくれているのがわかった。その気持ちが嬉しかった。


いつも通りの軽口をたたき合えるようになって、宙にも自分のことを昨日告げたことも話して、唯が落ち着いたのを見てから可奈は安心したような顔をして名残惜しそうに帰っていった。

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