第67話

そして唯がしゃくり上げる声が落ち着いてきたとき、怒った。


「唯はずっと私に仲良く”してもらってる”なんて思ってたの? 私はそんな、仲良く”してあげてる”つもりじゃなんかなかった。好きで一緒にいるのに。そんな、唯が苦しんでることで私が唯を嫌うなんてあり得ない。私がどれだけ唯を大切に思ってきたと思ってるの。大切に、してもらってたとも思ってた。違ったの? それに私の幸せなんて私が決めるの。私が唯と一緒にいたいからいるの。唯といて私は幸せなの。不幸に思ったりしない。唯の調子が悪くても私は唯の傍を離れたりしない」


初めて可奈に怒られた。そして自分がどれだけ大切にされてきたのかを思い知った。


もしかしたら、昨日宙も同じようなことを思っていたのだろうか。思っていて、口に出さないでいてくれたのだろうか。


宙は、自分といても幸せだと、思ってくれているのだろうか。私がこんな状態でも、まだ好きでいてくれていると思って、いいのだろうか。



大切な人を作らないなどと考えながら、宙に、可奈に、その二人から告げられた言葉で、この世につなぎ止められた。


唯が落ち着いた頃、今度は可奈が泣き始めた。しゃくりあげながら伝えてきた言葉は唯にとって意外なものだった。


「苦しいとき、辛いとき、傍にいられる、頼りたいと思ってもらえる私でいられなくてごめんなさい。辛い日をずっと一人で乗り越えてきたんだよね。私が楽しいと思って過ごしてた時間も、唯はずっと苦しかったんだよね。ごめんなさい。……お願いだから、お願いだからいなくならないで。唯のこと、私大好きなの。いなくならないで。お願いだから」


ああ、さっき可奈が怒った理由が分かった。自分が謝る必要も、可奈に謝らせる理由も、どこにもなかった。頼ってくれることが嬉しいと、可奈が悪い男に捕まる度自分も思っていたのに自分にその気持ちが向けられているなどと一度も考えたことがなかった。


二人とも落ち着いた頃、可奈が「ちょっと待ってて」と言って電話を切った。

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