side.唯
第66話
唯はと言えば、宙に自分の障害を、病を告げた次の日に同じく親友だった可奈にも自分の弱さを見せることを決意していた。
午後一時。深呼吸を何度もして、震える手で可奈に電話をかける。数回のコール音が鳴った後、いつも通り明るい可奈の声が「もしもし? 唯がかけてきてくれるなんてめずらしいね、どしたの? もしかして唯もついに悪い男に捕まった?」と聞いてきた。
用意していたはずの言葉はその瞬間に全て消え去った。
ごめんなさい。ごめんなさい。言葉に詰まりながら涙声で話す唯に可奈も混乱しているようだった。
「どうしたの? 私何もされてないよ、大丈夫だよ、ねえ唯? どうしたの? 何かあったの?」
「ごめんなさい。ごめんなさい。……わたし、発達障害なの。自閉症、なの。うつにも、かかってるの。ごめんなさい。……ごめんなさい。あなたが知ってる私は本当の私じゃないの。ごめんなさい。こんなに仲良くしてもらってるのに、こんな私でごめんなさい。これまで言えなくて、これまで何してたかだって可奈が聞いてこなかったのに甘えてはぐらかして、……ごめんなさい、こんな私でごめんなさい」
唯は泣きながら言った。いるのが家だったからか昨日宙に告げたときよりも涙はあふれてきた。
止まって、ちゃんと可奈に話さなきゃいけないの、止まって。これじゃ何も伝えたいことが伝わらない。お願いだから。
何度願っても涙は止まらなかった。一時は涙が涸れたように出てこなかったのが信じられないほどだった。
可奈は唯が話している間ずっと黙っていた。ただ、静かに唯の話を、泣いてしゃくり上げる声を、聞いていた。
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