第63話

唯は「割り勘じゃなきゃ嫌、私だってお金持ってきたし奢ってもらうのなんてもったいないよ、同い年ならなおさら奢ってもらうなんてできないよ」と言っていたが、


それを丁寧に断って次があったらその時は唯にお願いする、と言ってなんとか唯を納得させた。


元々自分から復学祝いと誘ったからには唯の分は払う気でいたし、さすがに余計なお世話だろうがきっと病気でバイトもできない中医療費もばかにならないだろうと思った。


会計を自分一人で済ませたのは自分のことを打ち明けてくれたお礼ですらあったような気もする。




帰り道送っていくと告げた声は自分で思っていたよりも数段優しかった。本来の唯を知って、その素を見て、更に唯に惹かれたのだと思い知った。


そもそも復学祝いという名目で本来なら今日告白するつもりだった。


これまでずっとやりとりを続けていたことで、食事をOKしてもらえたことで、彼女に前より近づけたと思っていたからだった。


「大丈夫だよ、ここから家近いし」と言った唯をまた遮る。


自分にしては強引な文句に、そして唯が自分をさらけ出して混乱しているであろう最悪なタイミングで想いを告げてしまったことに自分でも驚いた。


もっと雰囲気のいいときに言うつもりだった。唯が弱っていることにつけ込もうとしたわけでもなかった。それでもその言葉は宙の口から出ていた。


驚いた顔をした唯は少しして顔を曇らせた。


そしてしばらくして唯は素直に自分に送られながらぽつりぽつりと呟いた。


「カサンドラって知ってるでしょ、それに遺伝のことも、……寿命が短いって言われてることも。私、これから先ずっと一人きりで生きていくって決めたの。」



ああ、この子はいつから自分を諦めていたのだろう。


唯が考えて自分に伝えていることは周りのことばかりで、誰かに心配をかけまいとしていることばかりで、自分の幸せなど一つも思いついてすらいないようだった。


いつからかは分からない、それでも大学で唯と出会った時にはもう一人きりで生きていくと腹はくくってあったのだろう。


二十歳の、そしてそれより幼い頃の唯には重すぎる荷物を抱えて自分をずっと創っていたのだ。それはなんていじらしくて辛いことだろう。


唯のことが心配で、そんないじらしさが愛おしくてたまらなかった。

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