第62話
唯が全てを打ち明けて少し落ちついたのを境にケーキが届き、話を心理学の授業内容に切り替えた。
きっとこれ以上もう唯は自分のことを話したくないだろう。
吐き出した言葉に自分で傷ついたような顔をしながらそれでも最後まで唯は話しきった。
宙が話題を変えると唯は少し安心したような表情を見せた。口の中にチョコレートケーキを放り込んで唯はその甘さにやっと少し笑った。
自分の話をしたことで、人前で泣いてしまったことでもう消耗しきっていたのだろう。糖分が唯を少しずつ溶かしていくようだった。
唯はその涙の跡に見てすぐ分かるほどの顔色の悪さを覗かせながら、いつもの”唯”に戻っていった。
彼女の顔を見て話していたはずなのに、その顔色の悪さに今の今まで気づけなかったことが悔しかった。
よく見てみればレースのふんわりとした素材の袖から透ける腕は前よりずっと細かった。
それに気づきもせずに似合ってるなんて言ってしまったことも悔しかった。
努めて明るく話す唯がこれ以上自分に心配させまいとしているのは、そしてこれまでもずっとそうしてきたであろうことは明らかだった。
しばらくすればいつも通り笑顔で「Instagranくらい知ってるもん! 使ってないだけだから! サークルで運営してたこともあるし!」などと軽口をたたけるくらいになってはいたが、
それでも宙はやはり唯のことが心配だった。
彼女の本当の姿は、さっき見せた悔しさと苦しさを持った少女で、彼女の本当の性格はきっともっと頑なで泣き虫だ。
唯はいつからその自分をひた隠して生きていたのだろう。いつから他人に弱さを見せることを、悔しいときに怒ることを諦めていたのだろう。
ーーきっと彼女にはそうするしかなくなった出来事があったのだろう。差別か、いじめか、何にしろはじかれて一人きりになってしまったことがあったのだろう。
そう感じ取れる程度には宙は聡かった。
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