第55話

落ち着いてから届けられたケーキをきっかけに、宙は話を心理学の講義内容に切り替えた。


さっきの話は俺からは絶対に誰にも話さないよ、話してくれてありがとうとすら言ってくれた。


話の内容を変えてもらったおかげでいつもの唯に少し戻ったためか、さっきまでの動揺も多少落ち着いていた。


ケーキは甘く濃厚で、口の中で溶けていった。


その頃にはもう店に入ったときの唯と宙に戻っていた。




「このケーキすごいおいしいね、こんなお店どうやって見つけたの?」


「唯ちゃん使ってないみたいだけど若者にはInstagranってものがありましてね」


「ちょっと失礼! 私だって使ってないだけであるのは知ってるもん、サークルでアカウントの運営任せてもらったこともあるし」


「あ、そう? でも普通の人はアカウントの”運営”なんて言わないね、もっと軽く使うもんだし。で、そこでケーキ、とかパスタ、って調べると一発でおいしそうな店見つかるよ、写真もだけどコメント載ってるのも多いし。そうじゃなくてもここら辺は普通においしい店多いけど」


「え、そっかそういう使い方もできるのか、でもどうしよう今更始めるのもなあ、大体それって中高生で始めるものじゃない? 大学も後半に入った私が急に始めたら変じゃない?」


「全然変じゃない。むしろここまでその手のアプリ使わないでいてなんでそんなに友達いるのかの方が俺は疑問。ていうか唯ちゃんここまで来たからにはもう一生テーマパーク行かないとか決めるタイプでしょ」


「え、なんでそんなこと知ってるの! 私そんなの誰にも話したことないのに! 友達はまあ友達の友達とかとだんだん繋がっていって、私顔覚えいい方だから一回話したことある子にはひょいひょい話しかけに行っちゃうからだと思う……誕生日のお祝いとかしたりすると大体仲良くなれるし」


「やっぱり。友達の方はそうか、顔覚え悪い俺には無理だなー、そもそもいつもつるんでる奴らの誕生日すら覚えてないし。元々唯ちゃん人たらしだもんね、あ、これ褒めてる」




なんて話をしている間に二人分の皿とカップはきれいに片付き、帰り際割り勘を主張したものの却下され、「次は唯ちゃんに頼むから今回は」なんて言葉に唯は素直に宙におごられてしまった。


次、なんて言葉につられてしまった自分もいた。

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