第53話
料理が来るまでの間に、宙が既に大学を卒業し大学院に入って弁護士を目指すコースに入っていたことを知った。
対して自分はといえばようやく二年生の秋学期の取り戻しに入ったようなもので、その差に少し目眩がした。
ただでさえキャリアを積める時間も短いとされている、そして寿命さえ短いとされているのに。早く卒業してどこかできるだけ配慮のあってお給料をしっかりもらえる会社に入らないといけないのに。
だが、宙が「俺の父親なんてさ、三浪二留してんの。しかも大学時代にバイトにどはまりして留年。でもいまは弁護士。個人事務所でちっさくやってるからそんなに儲かってないみたいだけどね。だから何してても何してなくてもあんまり気にしないでいいと思うよ。あ、それもあって俺も弁護士目指してるんだけど」とすかさずフォローを入れてくれ、なんとか笑顔で話しているうちにパスタができあがった。
ふんわりといい香りがする。彩りも鮮やかなパスタに思わず二人とも無言になって写真を撮った。
何も言わなかったのに二人の動きは完全に同時で、二人して笑ってしまった。
パスタは評判になるのも分かるおいしさで、一口分けてもらったペペロンチーノも香りがとても良く久しぶりのまともな食事だったのにもかかわらずペロリとたいらげてしまった。以前自分で頼んだパスタが一口しか食べられなかったのが嘘のようだった。
「おいしかったー、ケーキも楽しみ」
「ほんとにおいしかった、おなかいっぱいだけどケーキは別腹だなぁ、このお店リピート確定だよね、可奈のこと連れてきたい……あ、ちょっと待って、目にまつげ入ったみたい。痛い。ちょっと鏡見てくるね」
と唯はハンカチとその中にくるまれている薬を持って席を立った。
今の、不自然じゃなかったかな。一人でパウダールームに入った唯はもう一度ゆるく巻いた髪とメイクを確認した。外の風に吹かれて髪型が崩れていないか少し心配だったが今のところメイクと髪型は殆ど崩れていない。
ハードワックスと食べても飲んでも色が落ちないリップを作ってくれたメーカーに感謝だな、なんて思いながら薬を飲んだ。
そして席に戻ってきた時、気づいた。自分が最大のミスを犯してしまったことに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます