第52話

道中も宙は唯の休学の理由に踏み込んでくる気はないようで、唯は安心して宙についていった。


宙はいつも唯が引いたラインを割ってくるような真似はしなかった。そしてそれが唯が宙との関係を保ち続けている理由だった。



たわいもない世間話をしながら少し歩いて到着したのはレストラン街から少し外れた場所にある来たことのない店だった。


唯の最寄り駅付近は大抵可奈や文学部の友達と行き尽くしていたつもりだったので、外れにこんな店があることは知らなかった。


「ここ、パスタとチョコレートケーキがおいしいんだってさ。唯ちゃん前好きだっていってたよね」


何気ない会話を覚えられていたことに一瞬胸が高鳴る。


店に入るとレトロな雰囲気の内装で落ち着いた雰囲気だった。おいしそうな匂いがして席に着くと同時に朝食を抜いた唯は久しぶりにおなかを鳴らした。


さすがに恥ずかしい。ちょっとでも何かおなかに入れてくれば良かった。いやでも今家にはチョコレートくらいしかない。何か頼んででも食べてくればよかったかな。


でも、「唯ちゃん準備万端じゃん。何食べるか決めよ」


と笑ってくれるあたりが宙の優しいところだった。


唯はボンゴレパスタとチョコレートケーキにストレートティー、宙はペペロンチーノにこちらもチョコレートケーキとコーヒーを注文した。


これも唯が散々ボンゴレパスタとペペロンチーノで迷っていた様子を見てじゃあ一口交換しよ、と宙が提案してくれたからだった。


なんだか今日は甘えっぱなしだな、と思いつつもそれが少しくすぐったかった。

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