第51話

約束の土曜日、唯は昼の約束に間に合わせるために朝食を投げ出して服装選びとメイクに徹した。


気合い入れすぎても駄目、でも気を抜きすぎると顔色が悪いのも一年半前より一回り、さすがに病的に見えるほどに細くなってしまったことに濃やかな彼はきっと気づく。


結局一時間以上かけて長袖のレースの刺繍があるパフスリーブのAラインワンピースで体型が隠れる服を選び、メイクもいつも通りの薄化粧と思われるように手間をかけた。


髪はゆるく巻いて、風に吹かれても崩れないようにワックスで固める。姿見を見て自分の中でGOサインを出した。これなら宙もきっと気づかない。


一年半前におろしたままほとんど履いていないパンプスを履いて家を出た。


 宙と待ち合わせをしたのは唯の最寄り駅の前で、ちょうど可奈や文学部の女子とよく使うレストラン街が広がっている場所だった。


予定より十分以上前に集合場所に到着する性格は染みついており、その日も約束した十二時半から十五分ほど前に駅に着いた。


春も始まったばかりでまだ少し寒い日も多い。その日も風が少し冷たく、唯は「着いたら駅の待合所で待ってるね」と宙に連絡して待合所に入った。


着いたら、と連絡したのはもう既に待っていることを知らせたら宙を焦らせてしまうと思ったからだった。こういうところの気遣いは体に染みついていた。


五分ほど待つと待合所の外に宙の姿が見えた。


「久しぶり。今日ちょっと寒いね。で、改めて復学おめでとう。俺早く来たつもりだったんだけどもしかして結構待たせた? ごめんね」


「久しぶり。復学祝いありがとう。待ってないよ、私もさっき来たところだから」


今の私は不自然に見えていないだろうか。


「そっか、ならよかった。そのワンピース唯ちゃんに似合ってるね。髪も似合ってる」


一年半のメッセージのやりとりの中で、お互いさん付けから少し発展していた。


そつなく褒めるところも変わってないな、なんて思いながら唯は宙に案内された道を歩き出した。

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