”まだ”と”また”

side.唯

第50話

春も暖かくなってくる頃、ようやく昼夜逆転の生活だけが明け方に眠りについて授業に出られるギリギリの時間に起きられる程度に直り、ーーもっとも一日に飲む薬の数は二十五を超えていたし睡眠時間も削られていたがーー


一年間が上限だった休学期間が切れたことで唯はなんとか復学を果たすことになる。


一応の復学は果たしたものの毎日講義に出られるわけでもなかった。


新型ウイルスの流行も落ち着いて政府からの対面授業実施の要請で対面授業が増えてきていたため、大学に配慮申請をしてもリモート授業が不可能だった講義には殆ど出ることができなかった。


実質一年半の遅れを取った分かつての同級生と授業が被ることはなかったものの、友人からは復学したということでこれまで何をしていたのかと質問攻めにあった。


まさか発達障害が理由でうつ病に罹り三回、計四ヶ月弱入院してました、それでその後は家族に連れ戻されて実家で休養してました、なんて言えようはずもない。


「ちょっと今後を見据えていろいろ? でもまだ内緒ね」なんてどう考えても苦しい上後が更に苦しくなる言い訳をしたが、

可奈によると留学説や起業説も立ち上がっていたらしく、”今後を見据えて動いていた”という唯の説明は意外にもすんなりと通ってしまった。


春学期の授業も三週目に入った頃、復学祝いと言うことで宙に食事に誘われた。


なんとか週に一回程度なら気晴らしに軽い散歩程度の外出をできるところまで復活していた唯は、一食でも多くきちんとした食事を摂るため、と自分の中で言い訳をしてOKした。


これまでは断ってきたけど大学生なら二人で食事をすることくらい珍しくもないだろうし、と更に言い訳を付け加える。


付け加えてみればその言い訳はどう考えても不自然で、これまでの自分の態度をひるがえしたことになることに気づいて焦って取り消した。


もういいよって返信だってしてしまったし。一回だけなら、同級生も上に上がっている今なら噂も立たないだろうし。そもそも復学祝いってだけで、遊びに誘われたわけでもないし。そんなことをぐるぐると考えているうちに約束の日は近づいていった。

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