第49話

家での生活は病院のそれと似ていた。


待っていれば決まった時間に食事が出てくる。一日のほとんどを寝て過ごしていてもいい。病院よりかは家の方が安心感も大きかった。


それに洗濯を自分でしなくてよくなった分、入院生活よりも家での生活の方が多少楽だった。


それでも唯は家族には自分が適応障害だと説明していた。紹介状は封をしてあったためその嘘は家族に通ってしまった。


多少創ったままの唯でいるのは苦しかったが家族には夜中起きてしまうことも悪夢のことも言わなかった。


「これってサイトに抗うつ薬って書いてあったけど唯は本当に適応障害なの? 抗うつ薬が出されるってことはうつ病なんじゃないの?」

ある日母親が聞いてきた。


「あーそれね、実は私も知らなかったんだけど適応障害にも抗うつ薬って使えるんだって。ただ高校生の時はまだ二十歳になってなかったからそういうところもあって出してもらえなかったんだと思う。ちょっと待ってね……ほら、このサイト見て。適応障害にも抗うつ薬使えるって書いてあるから」


「……あらほんとね、それなら分かったわ。適応障害なら確か大学から離れて家に帰っていればすぐよくなるはずよね?」


「そうそう。だから最初はわがまま言っちゃったけどやっぱり帰ってきてよかった。ごめんねわがまま言ったまま入院しちゃって」


「いいのよ、唯がよくなるのが一番なんだから。大学はどうするの?」


「今学期までで休学をし続けられる期間が終わるの。だから今学期末までおうちにいさせてもらって来学期からは授業少なめにしてもらってちょっとずつ出るつもりだよ」


「こっちからリモートで授業を受けるのはどうなの? 去年はリモート授業ばっかりだったんでしょう?」


「それが最近また国と大学の方針で対面授業が増えてきてるらしくてどうしても大学行かないと授業受けられないんだよね。だからそれまでの三ヶ月は家でのびのびゆったりするー」


「そうしなさい、私も日中ならいるから何かあったら言ってね。通院は一人でできるの? 一緒に行こうか?」


「気分転換にカラオケ行って帰ってきたいから一人で行く。薬が家族に管理してもらえるなら通院も月に一回でいいらしいからたまの気分転換の日にしたいな。それでもいい?」


「分かった。何かあったらいつでも言うのよ」


「ありがとう」


病院の帰りに言い訳にしたカラオケで何もせずに横になってヘッドホンをして数時間過ごしてから家に帰る。唯は復学までの三ヶ月間をそうして実家で過ごした。

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