第37話

浪人した年なんとか無事に受験会場に着いた宙は、必死の勉強のかいもあって見事に合格を手にした。


宙はその苦しかったはずの、永遠のように長かったはずの浪人期間のことをもう覚えていない。


頭の中に勉強したことの知識だけは残っていたのに、辛かったはずの記憶はすっぽりと抜けていた。


ただ自分が事故で死んでしまえばいっそ家に保険金も入るし大学の学費も払わなくて済むし家族にとってもいいんじゃないかとすら思っていたことは覚えている。

どうせ両親は自分のことを見てはいない。



大学に合格したとき、もう宙は海を責めることなどできなかった。


海がいなければ自分のことを見てもらえたはずなのに、きっと本当ならもう一年早く大学には入れたはずなのに、と思っていたことももう口には出さなかった。


海には障害があるから優しくしてあげてね、という両親からの言葉は鎖のように宙のことを締め付けた。



そして、現役時代の時に受験の機会を奪われたのにもかかわらず、海のことを嫌いになることもできなかった。昔のようにとは言わなくても海のことが好きだったし、海のことを悪く言う気にはなれなかった。


家族だから、と言う一言でまとめられるような気持ちではなかった。

ただ自分のことが好きでついてきただけの小さな子どもだったのだ。仕方ない、どうしようもなかったんだから。海は海なりにただ自分がしたいことがあっただけなんだから。


我慢するのはもう宙の習い性になっていた。人の心中をなんとか察して、その意に沿うように動いて、自分のことはどうでもいいと思って過ごすようになっていた。


大学生になってからも宙は海と一緒にいた。小さい頃からずっと心の中で羨んでいたことの、そして実際に一度声を上げてしまったことへの贖罪のようだった。

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