第36話
浪人時代は地獄だった。海の癇癪は落ち着いていたものの、予備校に通うこともお金のことを考えれば言い出せなかった。
なかなか伸びない成績。現役生に超されていくかもしれないという恐怖。もしまた受験することすら叶わなかったら。もし受けても落ちてしまったら。これ以上浪人することはきっと叶わない、そうすれば自分は夢を諦めて働くほかなくなる。
自分の家から通える範囲内にはもう私立校しか残っていない。浪人生ともなれば親よりも自分にかかるお金のことを考えている。
結局宙の判断で滑り止めを受験することも諦めた。
上がっていく気配のない成績に何度も諦めそうになった。何度も絶望して模試の成績が悪かったときには誰にも聞こえないように泣いた。
それでも宙は諦めなかった。やっぱりこの大学に入るしかない。
必死に頭に参考書の内容を叩き込んだ。宙の部屋はメモ書きを張ったもので埋め尽くされた。寝る前にも必ず単語帳を開いた。朝起きて最初に昨日の夜にやったはずの単語が頭に入っているかテストした。
それでも一度だけ、話しかけて来る海に怒鳴ってしまった。
うるさい。あっちに行ってろ。だれのせいで、去年受験ができなかったと思ってるんだ。こっちは我慢し続けてきたのに、今でも必死に我慢してるのにそれでも報われないかもしれないんだ。海は父さんにも母さんにも見てもらってるだろ。俺はそれすらもうとっくの昔に諦めたんだ。わざわざ俺のところになんて来ないで二人のところに行ってろ。
これまで我慢し続けてきたことが爆発した。
わんわんと泣き出した海を見て自分が何を言ってしまったのか分かった。宙は罪悪感でいっぱいになり、ごめんと言いながらそれでも海の泣き声に苛立った。
そんな矛盾した自分のことが大嫌いだった。
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