第35話
宙は一年浪人して志望校だった大学に入った。もともと頭が良かった宙は本当なら現役生の頃に受かっているはずだった。
でも宙の傍には海がいた。
海は宙が図書館に勉強に行くと泣いて大暴れした。図書館について二時間もしないときに電話がかかってきた。
「母さん? どうしたの?」
「宙、勉強中なのに申し訳ないんだけど海がお兄ちゃんと遊びたいって聞かないの。申し訳ないんだけど帰ってきて少しだけでいいから海に付き合ってくれる?」
そう頼み込まれて早々に図書館を出て、海としばらく遊んでから勉強に戻った。それからは図書館は諦めて自分の家で勉強することになった。
宙が家にいれば、海は必ず話しかけてきた。その話に付き合いながら勉強したいところだったが、海は自分のことを見てほしがって自分の部屋のドアや壁を叩いては宙の周りをうろうろして話しかけてきた。そしてそれをずっとやめなかった。そんな中で集中することなどできず、宙は手を止めて海の気が済むまで話を聞くしかなかった。頭の中ではこの時間に英単語がいくつ覚えられるんだろう、と思っていた。
受験直前期になっても海の話したい欲は止まらなかった。両親ともさすがに受験直前の宙のためになんとか海をなだめようとした。でもそれも結局は無意味だった。
受験当日の朝が来た。
宙が一人で試験会場に向かう、はずだった。
でも海はついていくと言って両親の制止も聞かずに暴れ続けた。仕方なく受験会場まで海をつれていって、ここからはお兄ちゃんしか入れないよ、と何度も説明した。
それでも海は聞かなかった。宙と一緒にいたかった海は受験会場の入り口で大泣きし始めた。
他の受験生もいる手前、泣いた子どもを放置してただでさえ緊張しているはずの学生の中に影響されてしまう人がいたら、と思うとその年の受験は受けることすら叶わず諦めることになった。
こんなことなら小さいとき仲良くしていなければ良かった。受験会場まで連れてこずに無理矢理海を引き剥がして家を出てくれば良かった。そう思ってもむなしかった。
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