第33話
中学生に入ってから海がADHDであることを改めて聞かされた。
「海はね、ちょっと落ち着くのが難しかったり、うっかりしたりすることが宙よりも多い子なの。だから小学校に上がったらひまわり学級っていうところに入るの。
ひまわり学級は知ってるかな?」
「うん、ちょっと皆より苦手なことが多い子が行くところだよね。じゃあやっぱり海は僕よりも苦手なことが多いんだね、分かった。」
「ありがとう。宙は苦手なことが多い子のことを悪く言ったりしないいい子ね」
成長した海は前よりも手が付けられなくなっていた。どこかに走り出してしまえばその足は小さい頃よりずっと速かったし、捕まえようとしてもジタバタする海の力は強くて押さえ込むのに必死だった。会話もうまくできなかった。
「海、今日お兄ちゃんテストで百点取ったんだよ」
「お兄ちゃん髪の毛変だよ、後ろはねてる」
「それはいいけど今日お兄ちゃんテストで百点取ったんだよ」
「僕最近百まで言えるようになったよ!」
海との会話はそんなものばかりだった。次第に海に自分の話したいことは伝えられなくなった。ただ海の言うことを聞いていることしかできなくなった。
両親も障害を持った子どもの子育てに必死だった。
「ねえお母さん僕今日テストで百点取ったよ!」
「すごいじゃない、これからも頑張ろうね」
テストで満点を取ったときも、宿題を終わらせて帰ってきたときも、運動会で一番を取ったときも、両親は喜んでくれたがその反応は昔とはもう違った。
両親の目はいつも海を見ていた。
少しずつ、少しずつ、大抵のことができるようになった宙は両親との時間を海に奪われていった。
ーー悔しい。前までは、海がいなかった頃は二人とも自分のことだけ見ていてくれたのに。海がいなければ自分のことをもっと見てくれるはずなのに。海がいるせいで自分は褒めてもらえないし海は自分の話をまともに聞いてくれさえしない。ずるい。自分だって頑張ってるのに。
そう思った瞬間に自分を責めた。あの子には、海には障害があるんだ。あの子はきっと普通でいることを頑張っているんだから、我慢しなければいけないのは兄である自分だ。誰よりかっこいい兄でいなければ。
そう思った。
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