第32話
海に異変が起き始めたのは三歳になる頃だった。
落ち着きがなく、名前を呼ばれても返事をしない。偏食も激しかった。ご飯になるから座っててね、と言われても立ち上がり椅子を降りて部屋中を歩き回った。
捕まえて椅子に戻してみてもまた立ち上がって歩き始めた。
そんなことはいつも見ている宙からすれば何の変わりもないことだった。
いつも好きなことがあったら飛びついちゃうし、よくうろうろしてるし、名前呼んでも目の前で手を振ってもぼーっとしていて気づかないこともあるし。
でも両親は心配した。宙の子育ての時に育児書を何冊も読んでいた両親には心配なものがあった。
ある日夜中に珍しく目が覚めてトイレに行こうとしたとき、暗い部屋の中で父と母が神妙な顔で話しているのを見た。
「……で、やっぱり海はこれに当てはまってる気がするんだ」
「そうね、一度近くの病院に連れて行って検査してもらいましょ」
「ママ? パパ? こんな時間に真っ暗にしてどうしたの? 海はどこか変なの? 病院に行くってことは調子悪いの?」
「いやそんなことないよ、ただ二人でちょっとお話ししてただけだから大丈夫。それより宙はどうした? 眠れない?」
「んーん、大丈夫。トイレ行きたくなって起きちゃっただけ。じゃあ二人ともおやすみなさい」
「おやすみなさい。いい夢見てね」
数週間後に両親が海を連れて病院に行った。帰ってきて母親が宙と目線を合わせて肩に手を置いて言った。
「海にはね、実は少し苦手なことがあるみたいなの。宙には簡単にできても海にはちょっと難しいことがあるの。だから今まで通り宙は海のことよく見ててあげてね」
「苦手なことがあるんだね、僕もピーマン食べられないし逆上がりもできないし皆きっと苦手なことあるもんね。わかった。僕もっと海のことみてる」
「ありがとう。宙は優しくて偉い子ね」
その頃から両親は海にかかりきりになった。
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