第31話

海が少し大きくなった頃には知育おもちゃや電車のおもちゃで海と二人で遊ぶのがあたりまえになっていた。

専業主婦の母が掃除に洗濯にと忙しくしている間、海は宙だけのものだった。


「これがくるまだよ、お外をはしってるぶーぶーだよ」


「ぶーぶー」


「そうそう! お母さん海が車のこと分かった! 絶対この子天才になるよ!」


「私もだけど宙も海が大好きなのね、……そうね、きっと海もあなたも素敵な大人になるね」



海は少し目を離せば何でも口に入れようとするし雨の日には外に出ようとして玄関まで走って行った。海は雨が大好きだった。


こんなに小さな子なんだ、僕が守らなきゃ。



宙は小さい物を海が飲み込んでしまわないように自分の小さなおもちゃは全て海の手の続かないところに置いたし、

外に出ようとする海を捕まえて泣きながら外に出たいと訴える弟をなだめて家の中で一緒に遊んだ。


その時の宙にとっては海といる時間が楽しくて仕方なくて、宙は学校の休み時間の間に宿題を終わらせて家に帰ってからの時間は全て海との時間に費やした。


「今日も宿題やってきたよ!」と帰ってきて一番に母にいうと「宙偉いじゃない! お兄ちゃんになってから前よりもっと偉い子になったね」と言われるのもとても嬉しかった。


自分の運動会に両親が海を連れてきたときは、「お兄ちゃんがかっこいい」と思われたくてそれまでのどの五十メートル走よりも速く走ったし応援団長にだってなった。


家に帰ってから家族が褒めてくれたのも、「お兄ちゃん走るの速かったね、応援もかっこよかったね」と母が言うと海が我が意を得たりとばかりに頷くのも嬉しかった。


自分は誰よりかっこいい兄になるんだ、と息巻いてテストの成績も上げたし運動だって頑張った。疲れて帰ってきても海とは必ず遊んだ。

それくらい初めての弟が、海のことがかわいかった。

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