第29話

そんな時にふとスマホを見ると宙からのメッセージが入っていた。


「大丈夫じゃないよな」


「俺実は一浪してるからその辺はあんまり気にしすぎるなよ、まあ元気なら余計なお世話だろうけど」


自分の状態を誰にも告げたことはないのに今私が”大丈夫じゃない”ことを前提とされたメッセージに不本意ながら目が潤んだ。


「全然大丈夫だよ、ていうか同い年だったんだね」


「え、唯さんも浪人?」


「私は高校でダブった」


「え、意外」それ以上宙は何も訊いてこなかった。


年が同じなのも今知った。


大学生ともなれば、特に有名校では浪人も留年もめずらしくないため、年などこれまで聞こうとしたことすらなかった。


もちろんこれで自分の遅れが全く気にならなくなることなどなかったが、正直なところ少し救われる思いだった。


不器用だがくれる言葉は、その本心はいつだってとても優しい。


一瞬宙に惹かれそうになる自分に気づいて、すぐさまその気持ちには蓋をした。


一人で生きていくと決めた。女性であることに寄りかからないとも決めた。私は一人で働いて出世して一人でつつましく生きていけばそれでいいんだ。


せめて人の幸せを奪わない自分でいなければ。


今は弱っているから頼りにしている友人のことがことさら良く見えるだけだ。


ここで絆されたら自分が必死に過ごしてきた五年間を無駄にすることになる。誰かの、ーー宙の普通の幸せを奪ってしまうことになる。


そう言い聞かせてその日も眠りについた。

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