第28話

半年間の休養が終わる頃には適応障害はうつ病に病名を変え、更に半年間の休養をせざるを得なかった。


三年生も秋学期に入り、多くの大学生は講義数を減らしてインターンや自己分析といった就職活動に手を付け始める時期である。


まずはしっかりと休養を取ること、と医師に説明されていたが、自分がベッドから起き上がることもなく過ごしているこの時間にも同級生は留学にインターンにと今後のキャリアを見据えていると思うと”ゆっくり休む”なんてことは到底できなかった。


私だって早くからキャリアを積まないと老後を慎ましくでも生きていけるお金が準備できるか分からない。


ただでさえ老後資金に二千万円必要だとかいうニュースも流れていた。


早く働いて出世してできるだけのお金を稼いでおかないと、お金はあっても困らないがなくては困る。障害年金という手もあるがこの都会じゃそれだけで生活するのも難しいだろう。生活保護を受けるとなれば家族にも話がいってしまうのでそれも却下。



巷では発達障害を持つ女性が”理解のある彼くん”に見つけられ、愛され、養われて生きていくというストーリーが人気を博しているのも気に入らなかった。


私はそんな夢とっくの昔に捨てたのに、自分の幸せしか考えていないような人はどこかで救われて愛されて生きていく。


悪いけど誰かの唯一にはなれないや。ごめんね、お母さん、お父さん。


サイトに”女は養われて生きていけるからいいよな、男なら自分で苦労して稼がないといけないのに”というコメントがついていたのも不満だった。


そんな甘えは捨てたのに、外から見ていれば私は養われていればいい性別なんだと思うと悔しかった。


それでも女性であることに甘える気など毛頭なく、女としての幸せを全て捨てる決意をして一人でキャリアを積んでいくつもりだった。そんな唯にとって、同級生の活動は焦りを肥大化させるものにしかならなかった。

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