第27話

休学期間中に唯は障害者手帳を取得し、ヘルプマークも使うようになっていた。


唯のいる地域では障害者手帳を持っていれば電車代もバス代も半額になる。


週に一回の通院の度に電車を使っていれば自炊をする気力もなくコンビニのご飯で済ませている唯にとってはそれなりの出費になる、というのが障害者手帳を取得した理由だった。


実際取ってみれば自分の持つ特性が個性ではない、れっきとした障害であると改めて突きつけられてしまい多少のショックはあった。


だがそれと金銭面の問題を秤にかけたとき、バイトすらできない今出費を最小限に抑えて家族の負担を減らす方に軍配が上がった。


唯は理性的な患者で、自分が病気であるということを診断された日からしっかりと認識していたし、毎日三食後と寝る前の服薬と週に一回の通院は欠かさなかった。


見つけた病院もよく話を聞いてくれ治療方針も丁寧に説明してくれるいい病院だった。ただ薦められたカウンセリングはあまりに高くて諦めた。


自分に出された薬がどんな薬でどんな副作用があるのか、唯は新しい薬をもらう度に複数のサイトで確認していた。重篤とされる副作用が出た日にはすぐに調剤薬局と病院に連絡して薬を調整し直した。


だが薬は増えるばかりで一向に減る様子を見せない。


ヘルプマークも使うようになったとはいうものの同級生と鉢合わせるかもしれない、思うと結局使えるのは市外に出るときくらいのもので、休学中に遊ぶなどもってのほかだと思っていた唯にはほとんど意味のないものとなってバッグの底にしまわれた。


もっとも遊ぶ元気すらそのときの唯にはなかったのだが。


今思えば家から電車で数駅の精神科の前で誰とも遭わなかったことすら幸運である。


雑居ビルの中ならまだしも、道路に直接面している病院の前で会ってしまえば言い訳のしようもない。唯が通う病院は駅から歩いて五分の道路に面した病院だった。


会ってしまった日には唯が心配だという名目で噂はすぐに広まるだろう。


唯がどんな相手の秘密をストッパーとして持っていようとも、休学しているにもかかわらず何をしているのか全く分からなかった同級生と精神科前で会ったとなれば話は別だ。


ーー学校来なくなったあの子、今精神科に行ってるらしいよーー


”心配”というこれ以上ない美しい理由で話が広まるのはごく自然なことだろう。


その時唯はもうそんなことにすら気が回っていなかった。

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