第25話

結局のところ、”大丈夫”ではなかった。


学費は両親を頼っており奨学金の申請はしていなかったため、両親に元気だけど診断が下りたから念のため、と伝えて大学三年生の春学期から半年間の休学をすることに決めた。


サークルも元々好きなときに出られるものだったのが幸いして、特に理由を訊かれることもなく休むことができた。


「でも診断が下りたってことは自分で心配して病院に行ったってことなんでしょう? 本当に大丈夫なの?」


「それが実はさ、最近胃の調子が悪いなーと思ってたら内科で検査しても何も出なくて心療内科に回されちゃったってだけなんだよね、今のところ全然高校の時みたいな症状は出てないの」


「そう? まあ唯がそう言うならいいんだけど……」


もちろん全部嘘だった。でも家族を心配させないようにとその文句は電話する前から作ってあった。




それまでの秋学期の講義は好成績もむなしく全て履修を取り下げて休養に専念することにした。


高校時代既に周回遅れだった唯には痛く両親にも申し訳なかったが、両親は唯がゆっくり休めることが一番だから、と快く秋学期の学費を払ってくれた。


唯も半年間休学しても卒業できるだろう量の単位は二年生の春学期までに取ってあった。


両親には休養するなら実家に戻っては、と強く勧められたが断った。


「友達とも会いたいしさ、こっちで生活していくだけの元気はまだ余裕で残ってるんだ、ただ勉強をちょっと休みたいだけだからこっちにいるよ。もし具合悪くなったら遠慮なく頼らせてもらうね」


家族に話したことも本心ではあった。


だが唯が家に帰らなかったのは創った自分で四六時中過ごすことは今の自分にはできないと思ったからだった。


四年半をかけて創りあげた自分も、高校では休学、大学では自分一人の時間があったからこそ耐えうるものだった。


実家に帰れば専業主婦の母と一日の大半を過ごすことになる。


いくら適応障害の再発を伝えているとはいえ、それなりに気を遣って”唯”としていなければいけない。


そんなことは今の唯には苦痛になるに違いなかった。

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