第24話

大学も二年生の秋学期に入ったある日、いつも通りの時間に目覚まし時計を止め起きようとした


ー-否、起き上がることができなかった。体は固まったように動かなかった。


一週間をかけて探して本来なら二ヶ月待ちだったところをなんとか予約をねじ込んだ評判のいい心療内科で唯に下された診断は適応障害の再発だった。


「毎日を同じルーティンで生活されているとのことですが、その疲れやストレスからくる心身症とみて間違いないでしょう。まずはきちんと休息を取って出した薬を飲んでみてください」



嘘。そんなの。私はあの生活が好きだったのに。あの寝る前の疲れだけが、あの達成感だけがありのままの創らない私を肯定してくれたのに、それさえ辞めろっていうの。


じゃあ私は何を楽しみにして生きていったらいいの。創らない私を認めてくれるたった一つのものすら手放せって言うの。


私がそうやって過ごしていなかったらいつか”唯”だって崩れてしまうかもしれないのに。




ー-ああ、だから”これ”は障害なんだ。個性なんて、特性なんてそんな生易しいものじゃない。障害でしかないんだ。


 それまで講義に無遅刻無欠席で「もし風邪ひいたりしたらノートは任せて!」なんて豪語していた唯のもとには、可奈と宙からの、そしてその他大勢の友人や自分に好意を寄せていると分かって距離を置いた知人からの大量のメッセージが届いていた。


一通り目を通してどの人にも同じように大丈夫だよ、ちょっと風邪こじらせちゃっただけだから心配しなくていいよと返しておく。


大丈夫なのかは正直自分でも分からなかったが、大丈夫かと訊かれて大丈夫じゃないと答えられる友人など持っているはずもなかった。


唯が創ってきたのはいつでも明るく”大丈夫”な唯だったのだから。


自ら避けてきたものが自分のことを痛めつけていく。


大丈夫と打つ度自分は本当に大丈夫なのかと自分に問いただす。


大丈夫だよ、という台詞は自分に言い聞かせているようですらあった。


ぶっ続けで打ったメッセージの返信も後半に入ってからは”た”と打つだけで定型の文章が最後まで表示されるようになっていた。


大体を返信し終わるといつもならもう寝ているはずの時間で、こんな時までいつものルーティンを気にしながら処方された薬を飲んでいく。効き始めた薬はゆっくりと唯の意識を奪っていった。

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