第23話

その日の帰り道、可奈と二人きりになったところで可奈に急に謝られた。


「ごめん唯、私があんな話題出しちゃったせいで思ったより盛り上がっちゃって……いやな気持になってない?」


ああ、この子は元来こんなに濃やかなのだ。なんて綺麗で、私なんかよりもずっと素直で純粋で。私もできるならこうやって生きていたかったな。


そんなことを考えながら答える。


「いいっていいって、盛り上がったのは可奈のせいじゃないしさ、宙さんとは他の男子と比べて結構仲良く見えてただろうからいつかは誰かしらには話題振られてたと思うし。むしろ遮ってもらっちゃってごめんね、可奈がいる日だったから遮ってもらえたんだろうし正直言うとちょっと助かったよ、ありがと」


「そんなそんな、唯がいやな思いしてなかったならよかった! 唯いつも話の流れについてくけどさ、嫌だったら嫌って言ってね? わたしそういうの疎いから後になってから後悔することも多くてさ、唯が嫌って言ってくれたらすぐ気づけてありがたいんだ。まあそれは私の都合だし唯の自由でもあるから余計かもしれないけど」


なんて最後に嫌だと言うか言わないかはあなたの自由だ、とラインを引いてくるのも創っている自分を浮き彫りにさせているようで、ありがとうとしか返せない自分の未熟さに腹が立つ。


創りきることも、素直になることもできない中途半端さも自分のせいなのに謝らせてしまう。


もっと完璧に”唯”を創り上げなきゃー-


そんなことを考えながら家路につき、家ではもはや分刻みでルーティン化された仕事のように家事とその日の講義内容についての勉強を進める。


一定の生活を好むという自閉症の特性は最も唯に当てはまっていたようで、実家を出てからはカロリー計算をした同じ料理を毎日飽きることなく食べ、殆どの日は誤差五分以内で余暇も済ませる生活を送っていた。冷蔵庫の中には同じメーカーの飲み物と毎朝食べるヨーグルト、それに一週間分の作り置きが綺麗に並べられてあった。


たまに宙に薦められた本を時間も気にせず読破してしまう日はあったが、宙の選ぶ本はどれも唯にとっては最高のラインナップでその日は満足感が高かったためあまり気にせずにいられた。


その自由に自分で全てを決めて過ごす時間が唯にとって自分を創らなくていい唯一の時間であり、最も気楽でむしろ楽しみともいえる時間だった。


一日の講義、復習に予習、家事に余暇、サークルへの出席とバイトがある日はバイト。家計簿を付けることに、自己分析とその日一日の反省会。


今日一日の反省はもちろん自分への質問を捌けなかった上に可奈に謝らせてしまったことで総括しても赤点だ。


今度はもっとうまく返さなきゃいけないな、なんて言うのが一番有効だろ。彼氏作る気ないとかもういっそのこと言ってしまうか? でもそれもなあ……


そんな考えまでもすべて時間通りに済ませ、午前も一時過ぎに疲れ切ってこと切れたように眠ることが”自分が頑張れている”ことを肯定するようだった。


ー-その日が来るまでは。

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