第21話

「ねえ唯さ、宙君とはどんな感じなの?」


一年生の春学期も終わるころ可奈に聞かれた。


「えー気になる? って言っても休み時間とかに話したりテスト勉強したりとかそんなくらいだよ? 残念ながらお友達で彼氏じゃありませーん」


文学部の女子五、六人で集まって大学近くのカフェで休日に女子会を開くのは春学期のうちから恒例になっていた。


講義の中間レポートを終わらせるという名目の日もあったが、宙との時のように黙々と進めることなどなく、結局女子トークが弾んで全員数行しかレポートは進まなかったためその言い訳さえ早々に撤廃された。


恋愛話に周囲が盛り上がる中割って入ったのは同じく文学部の陽向。



「えー嘘だあ、絶対あれは唯のこと好きだと思うよ? ねえごはんとか行かないの?」


「確かに確かに、めっちゃいい感じだよね。何なら今誘っちゃいなよ、連絡先持ってるんでしょ?」


あ、ちょっとまずい。これ行かなきゃいけない流れになる。


今ではそれなりに自分の居場所を作り上げたと自負する唯だったが、こういった話の流れを壊すのは未だに怖かった。


とはいえ恋愛話が盛り上がるのは女子大生としては当たり前のことだった。


「可奈もそう思うよねー?」と陽向は可奈に話を振った。


このままだと誘わなきゃいけなくなる、誰の誘いにも乗っていなかった唯がそんなことをした日には自分が好意を持っています、と伝えることになるようなものだ。


ただでさえ誰とでも話す唯にはそんなつもりがなくてもその気になった同級生が寄ってくる。


今はだれとも恋愛する気分じゃないし、忙しいからごめんね、なんてかわしているのだって宙と食事に行ってしまえば通用しなくなる。


いっそのこと宙が好きだとか言ってしまえば楽になるだろうが、大切なものは作らないと決めている唯にとってはそんな選択肢は最初から却下だ。


これ以上宙と発展させる気など毛頭ない。


そんな考えを巡らせている唯にとって可奈の返しは渡りに船だった。


「まあいい感じだとは思うけどさあ、こんだけいろいろ言って冷めちゃったり別れちゃったりしたら悪いのあたしらじゃん。絶対それ気まずくなるからやめとこ?」


ああ助かった。


可奈には無意識だろうがこうして話の流れを遮ってもらうことがある。


自分一人で対処できなかったことに内心舌打ちをするが、可奈にはありがたく甘えさせてもらうことにした。


そんな間にも陽向は可奈をばっさりと切り捨て、自分の彼氏の話に持っていく。陽向ののろけ話ももはや恒例だった。


「でね、最近三ヶ月の記念日にブランド物のネックレスもらったの!」


いいなあなんて声が飛び交う中で結局こっちの話がしたかったのか、と思いながらも陽向の話に耳を傾けた。

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