第20話

授業が被ることも多かった二人は、講義後にキャンパス内のカフェで勉強会を開くことも多かった。元々二人とも頭はよく簡単なレポートなら余裕でA+をもらっていたが、自分のことを調べつくしていた唯は心理学に、弁護士の父を持つ宙はー-のちに唯もこれを知ることになるがー-法学に特に強かった。




「ちょっと勉強進んでるとこ悪いんだけどこの判決ってなんでこれになったの? 普通もうちょっと重たくならない?」


「唯さん文学部なのに法学どれだけ強くなる気なの、こんなの教授もほぼ説明しなかったでしょ。……でもこれはそうだな、初犯だったことと家族が身元の引き受けを証言したこと、あとはかなり反省してる様子が見られて被疑者が毎週被害者に手紙送ってることも弁護士が主張したんじゃなかったっけな。やっぱり家族がきちんと引き受けるって言うかどうかで変わるとこはでかい」


「なるほどね、ありがと。そっち聞きたいことない?」




「そうだな、……強いて言えばうつ病と適応障害の完治までの時間が何でこんなに違うのか知りたい」


「おっけ、適応障害ってその環境から離れるとすぐに良くなったりするんだよね、たとえばブラック会社辞めるとかいうのがわかりやすい例。でもうつ病はそれだけじゃ治らなくて回復期だけでも半年以上は様子見ないといけないの。要するにブラック会社辞めてもうつ状態が残り続ける人のことうつ病っていうんだよね。どっちも抑うつ状態なのは変わらないよ。でもこの辺はちょっと診断難しいからこれ以上は医学部に聞いた方がいいかな。……ていうかそっちこそ細かいとこ突っ込んでくるじゃん」



お互い必要なこと以外は話さず聞きたいことだけ聞いたらあとは無言で勉強だったのも気楽だった。




同じ授業を取っていたときは早口の教授の講義内容を確認しあい、時には電話を繋げて夜中までレポートに打ち込んだ。可奈が気軽に遊べる相手だったのに対し、宙は趣味の合う頼れる友人という位置づけになっていった。


あけすけな好意をちらつかせてくる男子よりも、勉強と趣味という一定のラインからは踏み込んでこない宙には友達としての好意を持っていた。

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