第14話

唯は大学内に広く友人を持ったが、特に親しくなったのはやはり可奈と宙だった。


可奈は高校まで部活一筋だったようで、コスメを選んでほしい、と誘われたのが大学外で友人と会う初めてになった。


「まってまって下地?ファンデ? まず何があればいいの? 種類多すぎない? ていうか高くない? これなんて私のバイト五時間分なんだけど。え、これとこれとか何が違うの? パッケージの色だけ?」と化粧品コーナーに入って早速混乱している可奈をどうどうとひとまず落ち着かせ、傍にあった安価な価格帯のBBクリームとアイシャドウを手に取る。


「下地とファンデーションはとりあえずこれがあれば大丈夫。色も多分これかな。可奈色白だし特に目立った肌荒れもないきれいな肌だからコンシーラーはいらないと思う。オレンジ系が似合うと思うんだけど……これとかどう?」


唯が薦めたのはオレンジ系を中心に四色のカラーが入ったアイシャドウパレットだった。


「え、色白? 肌きれい? 嬉しいそれ。なるほど私に似合いそうなのはオレンジ系ね、たしかにそれパッケージかわいいしその値段なら買えそう」


試供品を手に取って目閉じて、というと可奈は素直に目を閉じた。


オレンジがかったブラウンのアイシャドウを軽く瞼にのせていく。


「おっけ、顔上げて? ……すっごい似合う、これ可奈に超似合うよ! かわいい!」


可奈は気をよくしたのかその後もチーク、リップと唯が薦めたものを端からかごに入れていった。


そんな素直さも可奈のかわいいところだった。


唯は可奈がコスメとにらめっこしている間に可奈から少し離れたコーナーで一本のリップを手にとり購入した。


帰り道コスメ一式を袋の中でカシャカシャいわせながらスキップしそうな勢いの可奈にそれを渡す。


「リップって何本あっても困らないしさ、たまに変えると気分転換にもなると思うんだよね。・・・・・・これ私のとおそろいなんだけど良かったらもらってくれる?」


可奈は嬉しそうに受け取って鼻息を荒くしながら「大事な日にしかつけない!」と宣言してきた。


「いやコスメって使用期限あるからね? ちゃんと使ってよー?」なんて話しながら帰り、それからもコスメ選びは二人で行くのが恒例になった。


可奈とは家も近く、ランチをすることや少し遠出してセンター街に出て映画を見に行くことも増えた。


可奈の見たい映画といえば決まって運命の人と惹かれあっていく恋愛物で、唯は自分には関係ないな、などと他人事のように思いながら毎回可奈に付き合った。


帰りのカフェで「ああいいなあ、私もあんな恋愛したいのに私に寄ってくるのなんてダメな奴ばっかり! あーあ、唯が彼氏になってくれたらいいのに」


「いや可奈じゃなくて私が性別の壁超えるの? ……まあ仕方ないなあ、可奈がもし最後の最後まで一人だったらもらってあげようかなー」


「え、唯イケメン、唯のそういうたまに男前なとこ好き……」なんて軽くいうことも多く、可奈は唯にとってなんでも気軽に話せる相手に変わっていった。


 「なんか唯また痩せた? 私のお肉持ってってよどうせなら」


「やだよこっちだって見えないところにお肉がついてるんですー頑張ってダイエットしてるところなんですー骨格ウエーブだから多少痩せて見えるだけですー可奈は多分ストレートだから服選べばもっと痩せて見えますー」


「うっそだあ、お肉なんてどこにあんのよもうっここか?! ここか?! 全然ないし! とりあえず服選びには付き合ってもらうからね、来週の土曜日あけといてよね」なんて話もしていたが、これが前触れだったことには二人とも気づいていなかった。

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