第9話

二千十九年の春、唯は関西の有名国公立大学に一発合格を果たし、地元である千葉県を離れた。


難関大学に合格できたことは唯を少し安心させた。卒業できればどこか大きな会社に就職できるのはきっと堅い。これなら私も一人で生きていける。


寮に入ることも考えたが、唯は大学近くのアパートを借りてそこで過ごすことを決めた。


唯にとっては創らない自分でいられる時間を半日以上持てることはありがたかった。


その一人の時間を自分で全て管理できることにも喜びを覚えた。


毎日変わらず同じ生活をしていたい唯にとって、大学生活は履修登録さえうまく組めば好きに過ごせる夢のような時間だった。


勉強だって運動だってお料理だって掃除だって好きなときにできる。


料理も家事も人並みにはできたが、好きなものや興味があるものにはもともとのめり込むたちだったため、凝った料理の研究に費やす時間はどんどんと長くなっていった。


家を出たからには好きに食事を取れるんだからちょっとヘルシーなご飯にしてダイエットだってしたい。


大学生になってようやく制服を脱げるんだ、好きな服を好きに着こなせるだけのスタイルは手に入れたい。運動に費やす時間もまた長くなっていった。




唯が入学したのは文学部だった。


高校生の頃からずっと人の心理を勉強するための一番の教材は小説と人間観察だったし、元々読書も好きだった。


それに加えて心理学が学べるとなれば最高で、唯は高校一年生の頃早々と進路を文学部に決めていた。


一人で生きていくと決めたからには、人の心情の変化にもっと聡くならなくては。普通の人が人がどう思ってどう感じているのかを知らなくては。


それをしなければそれこそ正社員として働いていくことが難しくなってしまう。逆にそれさえ分かれば好きなことにのめり込む私はきっと仕事もできる。


考えに考え尽くして唯は大衆心理を学ぶことを決めた。

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