第90話
探して探してビデオカメラを開くと、そこには奏斗と望の写真ばかりが写っていて陽向の写真は殆どなかった。
「くっそ、陽向……陽向の写真すら、ないのかよ、俺たちのこと、ばっかりで、」
そう言いながら探していると一件だけビデオが残っていた。DVDに落としていないものなんてあっただろうか、と思いながらそれを再生した。
画面にはまだ赤ちゃんの頃の望が写っている。しばらくして陽向の声が聞こえた。
「私はね、ママの陽向だよ。パパは奏斗さんだよ。今お仕事に行ったんだよ、世界で一番かっこいいパパなんだよ。
ママはね、びっくりするような大きい会社にたまたま入れたの。そこでパパに会ったんだよ。
最初はすごく怖くって、仕事に行きたくないなって思ってたんだけど、それでもかっこいいんだって分かってパパのことが大好きになったの。
お仕事でもいつの間にか頑張ったねって言ってもらえることが増えてきて、ママすごく嬉しかったんだ。それでママはもっともっとお仕事頑張りたいって思ったしパパみたいにかっこよくなりたいって思ったの。
パパはママのことを大好きって言ってくれて、素敵なレストランで結婚しようって言ってくれたの。今でも覚えてるくらい素敵だったんだよ、お料理も美味しかったしパパもすっごくかっこよかった。
いつか望も大きくなったら一緒に行こうね。
……あ、笑った。奏斗さん、笑ってくれたから二人で奮発してもう一回、今度は三人で行こうね。
ママはね、病気にかかっちゃって望が大きくなる頃にはきっと望の顔が殆ど見えなくなっちゃうの。
それがすごく残念だけど、ママはパパと望のことをとっても愛してるの。
それでパパも目が見えなくなっちゃうことを知ってもまだママのことが大好きだよって言ってくれたの。とっても素敵な人なんだよ。
だからもし望が大きくなったときにママの目がもう見えなくても許してね。あなたに遺伝していないと良いな。
何にもなれなくても、何も上手くいかなくても、ママとパパはずっとずっと望のことを愛してる。大好きだよ。
だから何にでも挑戦して良いし何度失敗してもいい。辛くなったらママとパパのところに帰っておいで。絶対に味方だからね。
愛してるよ、パパ、望、二人とも大好きよ」
そこで動画は途切れた。流れなかったはずの涙が止まらなくなった。その愛しい声に、自分と娘に愛を伝えている言葉に涙が止まるわけもなかった。
「陽向、陽向、お願いだから帰ってきてくれ、くそ、なんで俺は助けられなかった、なんでっ……陽向、俺はもう陽向がいないと生きていけないんだよ、陽向……レストランだって三人で行くんじゃっ……もうどこにも行けなくてもいい、だから頼むから帰ってきてくれよ……陽向……」
その夜は朝までその動画を見て涙を流した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます