最期に視たもの

第86話

その日、奏斗の有休消化で三人とも時間があったため三人で春から使うランドセルを買いに行っていた。


親二人からしてみれば自分の小学生の頃よりあまりに多い種類に驚くばかりだった。「今のランドセルって何色あるんだ、横にも後ろにも刺繍まであるし軽いし。これすごいぞ、持ってみろ陽向」「……うっわ、軽っ。これなら安心だね教科書入れても重くならなさそうで。ランドセルで肩こっちゃったらかわいそうだもんね。でも選ぶの時間かかりそう」


ただ望からしてみれば答えは見た瞬間から一択だったらしい。


「望ピンクが良い! 刺繍もこのお花のが良い、これが一番可愛いからこれにしたい」


「六年間使うんだぞ、飽きるかもしれないよ。こっちの茶色とかパパは可愛いと思うけどなあ、これはどうだ?」


「やだ、その色おじさんみたい。男の子の色だもんそれ。ピンクの方が良い、六年してもピンク一番好きだもん」


「色で男の子と女の子は決まらないよ。それは違うからその考え方はやめようね。女の子が黒持ってても、男の子が赤でも素敵なんだよ。だからそういう子を見たら素敵だねって言えるようになって欲しいな。それから望、せめて全部見てから決めようか。まだたくさんあるよ、これより可愛いのもあるかもしれないよ」


「分かった。そうだね、この黒いのにもリボンの刺繍してあってかわいいもんね、女の子が持ってても良いんだね。望皆素敵って言う」


「そうだね、そうしてくれるとママも嬉しいな。じゃあ見に行こうか」


そう言われてピンクのランドセルを渋々手放した望は一周ランドセルの列を見て回ってそれでも最初に決めたピンクのが良いと言った。


「いいか、途中で買い換えたりできないからこれって決めたら嫌になっても絶対にこれを使うんだよ。できるか?」


「望六年生になってもピンク好きだもん、嫌にならないもん」


「もしももっと望が大人になって子どもっぽいから嫌だなって思っちゃう日が来てもちゃんと使い切れるかな? それができるならこれにしても良いよ」


「子どもっぽくないもん、ピンク可愛いからどうしてもこれが良い」


その答えに二人とも少し不安な顔をしたが、それでも望が譲らなかったし、そこから動かなくなったので諦めてそのランドセルを買うことに決まった。


「持って帰るときパパがしょってもいいか?」


「だめ、望が背負うの、パパにはあげないの、壊れちゃう」


と言って早めのランドセルを背負いながら三人で手を繋いで家路についた。

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