第85話

平日には変わらず図書館に行って本を借りてきてはそれを読んでもらって過ごして、休日は土曜に出かけて日曜日に疲れて屍のように眠る日々が続いていた。


教える必要などなくてもその頃まで読み聞かせをされてきた望はひらがなが殆ど読めるようになっていた。


二人で本屋に行ってひらがなの練習ドリルを買って練習する日もあった。陽向の目は段々と見えなくなってきていたので、周りを動きながら望の書いた字を読んだ。


「望惜しいね、それだとちょこっと違うな。お手本よーく見てごらん、ママと間違い探ししよっか」


「あ、ここお手本と違う、なんか線が多い望の字」「そうそう、よく気付いたね、もう一回書いてみようか」と言って小学生になる準備も着々と進んでいた。


望は吸収が早くてお風呂に貼ったひらがなのシートはさっさと読めるようになっていたし、陽向と曇ったガラスにひらがなを書いて練習して段々書けるようにもなってきていた。


気付けば望はもう五歳の誕生日を迎えていた。一歳の頃と同じようにカメラを向けて歌を歌ってから火を消して電気を点ける。


カメラに向かって五の手をしながらケーキにかぶりつく望を見て二人で微笑んだ。


「昔の望はケーキ食べられなかったけど今は見られるもんね!」と嬉しそうにしながらケーキをどんどん食べていく。


「残しておいたら明日も食べられるよ」と言う言葉を聞いて少し迷った顔をしてから「明日食べるけど今日も食べたい……」と言って悩み始め、最期まで考え抜いてから少しだけ残して残りを食べきった。


「生クリーム気持ち悪い……やっぱりもうちょっと明日にしとけばよかった……」と横になって苦しそうに言う望を見て二人で笑って、望に「なんで笑うの! 今望苦しいんだよ! 笑わないで心配してよ!」と怒られた。


次の日の夕食後に残ったケーキを美味しそうに、名残惜しそうに食べながら「昨日もうちょっと残しとけばよかった……」とまた言っているのがおかしくてまた二人が笑って怒られてしまった。


それでも小さなホールケーキを一口ずつ二人に分けて望一人で二日間でほぼ食べきった。


アルバムも気付けば五年分の厚さになっていた。


「七五三ももう半分まできちゃったね、早すぎるくらいだなあ、最近まで夜泣き……これ結構前にも言った気がする」


「三歳だかその辺になったときも言ってたなそれ。……そうだな、撮ってくれなくなる時期が来るとしたらその辺りか……怖いな、反抗期」


「怖いね、私も反抗期来るの怖い、どうしようババアとか言われたら」


「俺は嫌いって言われただけで倒れる自信があるな」


そう話しながらも二人は望の順調な成長を誰よりも喜んでいた。

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