第80話
「ごめんね、奏斗さんのこと悪者にしちゃって。これまであんまりたくさん怒るようなこともなかったんだけどさすがに今日は怒るべきだと思って。嘘ついて逃れるような子にしたくなかったの」
「俺もだ、俺もあの時陽向を怒ってそれでも望が何も言わなかったらもっと怒ってた。でも望はちゃんと自分で謝ったから安心した。俺と陽向が一番安心だったよ、望は悲しかったかもしれないがそれも必要な段階だと思う」
「そう、だよね。必要なことだったはずだよね。嘘つく子にしたくなくて。大人になるまでは嘘に騙されてくれる人もいるかもしれないけど、大人になったら真っ先に信頼されなくなっちゃうと思って。あの子にはそういう人にはなって欲しくないの。あの子には皆が応援したくなるような子に育って欲しいんだ」
「望はきっとこれからも俺らに怒られながら成長するよ。俺としては陽向みたいな素直で純粋な子に育って欲しい。嘘はつかない子でいて欲しいな。それを逃げる方法にして欲しくない。まあ俺の頃みたいな仕事環境に耐えろとは言わないし、逃げても良いときはある。それでも嘘で逃げるのはほとんど誰かを代わりに犠牲にすることだ」
「そうだよね、私が泣いたフリしたので望の心が痛んだんだと思ったらちょっと申し訳ないけど安心した。私が代わりに犠牲になれば良いと思う子じゃなくってよかった」
「本当にそうだ、今まで陽向がよく見てきて傍にいてくれたからきっと心が痛んだんだ。他の誰かじゃ駄目だったかもしれない。これまでよく見ていてくれてありがとう」
「私こそありがとう。久しぶりに奏斗さんの鬼のときの声聞いた」
「俺あんな声してたか?」
「してたよ、何ならもっと怖かった。睨むし。実は最初の研修の時話聞かないで奏斗さんのこと見てたの、怖そうな人がいる、担当があるならあの人だけは担当にならないでくれって。そしたらどうやって気付いたのか奏斗さんに一瞬で睨まれて」
「そんなこともあったな、懐かしい。研修終わってからもしばらくは絞ったしな」
「絞られたよ警備音鳴る寸前で会社出るのが毎日だったもん。望には体験させたくないね」
「それはそうだな、俺が入ったときは警備すら入ってなかったから下手すりゃ泊まりで仕事だったよ。それでも次の朝にやり直し食らってもう散々だったね」
「奏斗さんすごい経験してる、今のうちに訴えたら?」
「そんなにめんどくさいことするかよ、今定時退社できるなら万々歳だ」
二人は昔の話に思いをはせながらその夜をゆっくりと過ごした。
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