第79話

ある日奏斗の元に仕事中陽向からメッセージが届いた。珍しいな、と思って開くと「おやつを隠してたところを見つけて爆食いしてるところを確保。取り上げて怒ったらギャンギャン泣いてます」とお菓子を抱えて食べる望と泣いている望の写真が送られてきて思わず少し吹いた。


休憩中に林に見せると林もその写真がツボに入ったらしく「望ちゃん可愛いんだね、あげたおやつ抱えて食べちゃったか」とクツクツ笑った。


その日の仕事もきっちり定時で上がって家に帰ると、望が走って抱きついてきた。


「パパ、ママが望なにもしてないのに怒った」その言葉で後ろの陽向がどうする? さっきからこんな調子なんだけど、という顔でいたので少し笑ってしまった。


「パパおやつ食べちゃうことよりも嘘つくことの方がよくないと思うな。望本当になんにもしてないのにママが怒ったのか?」


「……望何もしてない。ママが勝手に怒った。望何もしてないのに怒った」


「パパもうママからおやつ勝手にいっぱい食べちゃったって聞いてるんだけど。じゃあママが嘘ついてるのかな?」


「……ママが嘘ついてる。望何にもしてないもん」その言葉に陽向の方を見て合図をしてから一段声を低くして、望がまだ聞いたことのない声で言った。


「ママ、こっちに来なさい。……俺に望が嘘ついたって言って怒るなんて何してるんだ。望がかわいそうだと思わないのか、大体本当に望がそんなことしたのか」


「ごめんなさい、でも嘘なんて「望が嘘ついてるって言うのか、望は違うってちゃんと言ったぞ」


「ごめんなさい、パパ、ママがよくなかったです」そう言って手で顔を伏せた陽向を見て望が泣き始めた。


「んーーーちーがーうーのー、ごめんなさいパパー、本当は嘘ついたの望なの、お菓子見つけて食べちゃったの、ママ悪くないの、ママのせいじゃないの、ママのこと怒らないで、ごめんなさいーパパー」と半ば号泣してまた抱きついてきた。


「パパー、もうママのこと怒らないで、何にもしてないのはママなのー」


「そうか、よく言えたな。嘘つくとママとか他の人が傷つくのは分かったかな?」


「わかった。嘘ついたら駄目だった」


「そうだな、よく自分で言えたな。おやつなんで一日一個だけにしてるかわかるか? 別に望に意地悪してるわけじゃないんだよ」


「……なんで? 望食べたいのに駄目って言われるの何でかわかんない」


「望がもしおやつ食べ過ぎちゃって虫歯になったら望が痛い思いをするし、普通のいつものご飯を食べなくなっちゃったら望の体が元気じゃなくなっちゃうからだよ。全部望のためにひとつだけにしてるんだよ。痛いのやだろう? 虫歯ってすっごく痛くてママのご飯もおやつも食べられなくなって夜も眠れなくなっちゃうくらい痛いんだぞ、それでもいいのか?」


「やだ」


「そうだよな、じゃあ次からは一日一個にできるか?」


「する、ごめんなさい」


「よし偉いな、パパは望の事許したから仲直りだ。でもママが悲しい気持ちになったからママにもごめんなさいできるか?」


「ママごめんなさい、望これからは一個だけにするから泣かないで、嘘ついてごめんなさい」


「いいよ、よくごめんなさいが言えたね。これからは一個だけにできるね、ママと指切りげんまんしよう」


「ゆーびきーりげーんまん、うっそついたらはりせんぼんのーます。ゆびきった」


「よし、これで仲直りにしようね、もう怒ってもないし悲しくもないよ、嘘つかないのは望が大きくなったときにもとっても大事だから覚えておいてね」


「はい。ごめんなさいでした」


そう言って仲直りしてからはいつも通りに夕食を食べて望は腫らした目で眠りについた。

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