第76話
夢中になった望は、クライマックスで左手側に置いてある望のウーロン茶と間違えて右手側に置いてあった奏斗のコーラを口いっぱいに飲んで吹き出した。
「ぶっ……コホッコホッ」
「え、ちょっとまって望大丈夫? どうしたの? 何かあった? 苦しいかな?」
「なんかまずいののんだ、これ望のじゃない、望のお茶飲みたい、望濡れた」
「パパのと間違えちゃったか、コーラだったもんね、しゅわしゅわしててびっくりしたね。中身暗くて見分けつかなかったんだね。こっちが望のお茶だよ、はいどうぞ。体冷たくないかな?」
「望大丈夫、これみたいからいいの」
望はお茶をごくごく飲んでまた映画に集中し始めた。幸い応援上映だったのでそこまで騒ぎにならずに映画を見終わった。
「かっこよかった、もう一回みたい、望もう一個ポップコーン食べたい」
「かっこよかったね、また見に来ようね。……こっち大丈夫そうだけど奏斗さんそっちの席濡れてない?」
「望の背が低かったおかげで殆ど濡れてないな、一応拭いて清掃の方に謝ってから出るか」
まだみたい、まだ食べたいという望を抱きかかえて映画館の人に事情を説明してから映画館を出た。
映画館はショッピングモールの中だったのでそれからコーラでびしゃびしゃになった望の洋服を見に行った。
「望これ可愛いと思う、これがいい。これお姫様みたいだからこれにする」
「望今濡れてるからお店のお洋服触っちゃ駄目よ、でもこれがいいのね、じゃあこれにしよっか」
そういって新しいワンピースに着替えた望はご機嫌でショッピングモールを回って、もう一度自己紹介の関門をくぐり抜けてから疲れ果てて帰り道は寝て過ごした。
望を抱きかかえて歩く奏斗に、「楽しかったね、ちょっとびっくりな事件もあったけど」と言うと嬉しそうに「ああ、楽しかった。今日は望が大人になった時にできる話がいくつも増えたな」と言った。
その日の様子は汚れたシャツの写真と一緒にアルバムに挟まれて「望の事件」と書かれて保存された。
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