第74話

次の日もまた次の日も、望は絵本の読み聞かせで一日を過ごした。陽向は何度でも絵本を読んで、どれだけ覚えが悪いと言ってもさすがに暗記できるくらいになっていた。


ミカンが出てくる絵本を読んだときには、望が「ねえママ、ミカンのジュースは誰が入れてくれてるの?」と聞いてきた。懐かしいな、私もこれお母さんに言われて信じてた時期あったな。でもこの子は自分で思いついたのか、小さい子の想像力ってすごいなあ。


その質問が可愛くてカメラを回しながら「誰だろうね、もしかしたら工場で一つ一つ入れてくれてるのかもね」と言った。


「そっか、ミカンのジュースは工場で入れてくれてるんだ、だからミカンジュースはミカンの味なんだね、望初めて知った!」と言った望がまた可愛くて、望が寝た後奏斗にその話をして動画を見せた。


「そっかミカンジュースがミカンからできてるじゃなくてミカンのジュースが元々あると思ってるのか、そんなの考えたこともなかった。にしてもそれは可愛いな」


「でしょでしょ、この子目キラキラさせて言うからすっごく可愛くて。私も小さい頃お母さんにそうやって聞いて小学校入るまで信じてたから、この子にもしばらく信じててもらおっか」


「そうだな、こんな可愛いこともなかなかないしな。しかし俺が仕事してる間にどんどん望は大きくなっていくな、もっと見ていたいくらいなのに」


「子どもの成長って本当に早くてびっくりしちゃうよね。私も毎日見てるはずなのに最近まで夜泣きしてた気がするもん。そういえば奏斗さんのお仕事の話最近聞けてなかったけど、最近どう?」


「いつも通り、陽向が育ててってくれた後輩達が陽向ばりに仕事するようになってきてて助かってるよ。俺も有給もゆっくり取れそうだし、休みになったらどこにでも行こう」


「そっか、今でも一番かっこいい営業マンなんだろうなあ奏斗さん。それが見られないのはちょっと残念だけど、私は望のこと独り占めできるからいっか」


「そうだぞ、羨ましいくらいだ。俺には独り占めの時間はないからな。最初に立ったのだって喋ったのだって見てたのは陽向なんだから。俺も直に見たかったね」


「これからも二人の専属カメラマンになるから安心しててね、どんな成長も逃さないからちゃんと帰ってきたら見られるようにしておくよ」


「仕事ばりに気合い入ってるな、じゃあ俺は夜望が寝た後にゆっくりその日一日を楽しむとするか」


その日も二人で望のビデオを見てから望を挟んで川の字になって寝た。

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