第73話

「今日のお話会は次三時だからおなか減っちゃうね、今日はさっき選んだ絵本を借りて帰って一緒におうちでお話会しようか」というと良い返事をして選んだ本を抱えて持ってきた。


「あそこのテーブルのところに本を持って行こうね、……そうそう、できたね。じゃあママの持ってるこのカードをお姉さんに渡してくれる? そうそう、そのカードだよ。できたね。大きくなったら望も自分のカード作ろうね。じゃあこの本はバッグに入れてママが持ちます。重たいからね。楽しかったね、また来ようね」


「また来る! また絵本のお話会する!」


そう言って図書館を出た二人はドラッグストアに寄った。


「望にこれを買ってあげよう。これはママの使ってる口紅みたいなのだよ」と言って子どもも使えるリップクリームを買った。


「はちみつの匂いだって!! パパ気付くかなあ」


「どうだろうね、内緒にしておこうか。パパが気付くか試してみよう。二人だけの秘密だよ、内緒。できるかな?」


「内緒! パパには教えない、内緒!」


と言って嬉しそうにリップクリームを持って二人でまた電車に乗った。


望は帰りの電車の中でも静かにしていて、下りてから静かにできて偉かったねと陽向に褒められて嬉しそうにしていた。


家に帰ってご飯を食べた望は眠くなってしまったようで、机に突っ伏したまま寝た望を陽向が抱っこしてベッドに連れて行った。


「ママと絵本読むの……」と言っている望に、「また起きたら読もうね」と言って頭を撫でているとしばらくして望はすーすーと寝息を立て始めた。




数時間して体力が全回復した望はさっきのリップクリームを鏡の前にある台に上って塗って嬉しそうにしながらお話読んで! とせがんだ。


望の大好きなシリーズの絵本にはたくさんの動物が出てきて、陽向は少し動いて文字を探した。そしてさっきのお話会を思い出しながら声色を変えて絵本を読み切った。


膝の上で絵本を眺めながら聞いていた望は読み終わるとすぐに「もう一回! もう一回聞きたい!」と言って結局その日は奏斗が帰ってくるまで一冊の絵本を読み続けた。




「ただいま」「パパ聞いて今日ママと図書館行ってきたの、ママの口紅買ってもらったの!」


「あー望秘密って言ったでしょ? 覚えてるかな?」と言うとはっとして望は両手で口を押さえた。


「いいよ望、パパに見せてあげて。パパ、今日望図書館のお話会に夢中になって絵本もたくさん借りてきたの。リップクリームも帰りに買ってきたんだよね」


「うん! どうパパ、ママみたい? かわいい?」


「かわいいよ、とってもかわいい。お話会も楽しくてよかったな」


「うん!」


望はその後夕食を食べてリップクリームが落ちたことでまた大泣きしたが、「ママもご飯食べたら塗り直すんだよ、女の人は皆ご飯の後塗り直すの。望も仲間入りだね」と言うと泣いていたのが段々収まっていってしばらくしてからリップクリームを塗り直して嬉しそうにしていた。


その夜望は部屋の机の上に絵本を重ねてリップクリームを大事な宝物の箱に入れて眠りについた。

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