第72話

外で手を繋ぎながら歩く望はまださっきまでのダンスの歌を歌っていて上機嫌だった。


「ここから電車に乗るよ、電車の中にはたくさん人がいるから静かにしてようね。お姉ちゃんになった望にはしーできるかな?」


「できる!」と大きく手を上げた望に微笑んで大人用と子供用の切符を二枚買って電車に乗った。


通勤ラッシュの時間帯ではなかったため電車内は少し空いていて、隣に座った望はさっきの踊りを小さく踊りながらそれでも静かに電車に揺られていた。



「着いたよ、下りようか。先に並んでる人がいるからその人の後ろから一緒に下りようね、割り込みしちゃ駄目だよ」


「わかった、ママと手繋いで一緒に下りる」


無事に電車をクリアした二人はそのまま少し歩いて図書館に到着した。


「望、ここが図書館です。大人の人も、望みたいな子も皆が来られる場所だよ。電車の時とおんなじように人がいっぱいいるから静かにしてようね、静かにできなかったらおうちに帰るからね」




望は初めての図書館で絵本に囲まれて目をキラキラさせながら子どもの絵本のコーナーをぐるぐる回った。


「ママ、いっぱい絵本あるねえ、すごいねえ、望図書館毎日来たいな」


「すごいね、望、実は図書館の本は一週間だけ借りておうちに持って帰ってこられるんだよ。毎日来なくっても新しい絵本がおうちで読めるんだよ」


「ほんと?!」と更に目を輝かせた望はまたぐるぐると絵本を見定めながら回り始めて、その手にいっぱいになるくらい絵本を集めて戻ってきた。


「ちょっと多すぎて望が持って帰ると疲れちゃうね、半分にして来週また借りに来ようか」というと望は不満そうな顔をしたがそれでもよくよく考えて好きなシリーズの絵本を五冊選んだ。


「選べて偉いね、今日の望は偉いことがいっぱいだね」


「望偉いでしょ」


「そうだね、偉いね。……あ、望、九時になったらお話会が始まるよ、行ってみようか」

「お話会?」「そう、読み聞かせがしてもらえるんだよ、こっちにおいで」


しばらく座っていると望くらいの年の子どもが集まってきた。そして話しかけてくる子もいた。


「あたしりかだよ、四歳。名前なーに?」


「望だよ、三歳」


「それ四つの手だよ、三つはこうやってやるんだよ。私の方がお姉ちゃんだね」


「望お姉ちゃんいないもん、望がお姉ちゃんだもん」


「望、このりかちゃんっていう子は望よりも少し早く生まれたからお姉ちゃんみたいなものなんだよ」と陽向が話しかけて見るも望は対抗心がわいてしまったようでしばらく「望がお姉ちゃんだもん」と言い続けて喧嘩になりかけていた。


それを二人の母親が止めようとしたとき、お話会が始まって望もりかちゃんもそれに釘付けになった。


図書館員の方のお話はとても上手くて、昔話を表情や声色をコロコロ変えながら話していた。そしてそれを望は興味津々で見ていた。


途中で興奮して歩いて絵本の目の前を陣取ろうとする望を抱き直してしばらく絵本の読み聞かせを聞いた。


ああ、なつかしい。私もこの本お母さんに読んでもらって大好きだったな。望もきっとこれたくさん読んでいつか子どもに読んであげるときが来るんだろうな。

それって素敵だな、いつか望もこれ読んでもらったなって思うのかな。そうだったら嬉しいな。


そう思いながらお話会が終わってまだ興奮している望に「どうだった?」と聞くと「お話会好き、楽しかった! もう一回聞きたい、おうち帰ったらママにも読んでほしい!」と嬉しそうに言った。

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