第71話
望は三歳になった頃から読み聞かせが大好きになった。家にあった絵本を何度も何度も陽向の膝の上で読んでもらうのが大好きだった。
ある日望は陽向と二人の時に大声で言った。「ママ。望誕生日プレゼントに本屋さんが欲しい!!」
「んーちょっとさすがに難しいなあ、本屋さんは買えないの。本屋さん買えたらママも欲しいけどどうしてもできないんだ。でも望は本が大好きだもんね。じゃあママと一緒に図書館に行こうか。本があるところだよ。望の好きな電車に乗っていくよ」
「図書館に本いっぱいある? 電車好き、行く、ママ早くして、もう行こうよ、ねえまだ?」
「本いっぱいあるよ、望が知らない本がいっぱいあるんだよ。行く途中で電車にも乗れるよ。でもママお化粧したいからもうちょっとだけ待っててね」
「お化粧望もしたいなあ、可愛いのが良い、ママみたいなのしてかわいくなりたい、その口紅使いたい、望にかーしーて」
「望は十分可愛いからしない方が可愛いよ、そのまんまの方がいいなあママ。大きくなったらまたしようね」
「やだ、そんなのやだ。大きくなったらっていつなの? いつなのかわかんないならやだ、今がいいの、今して、じゃなきゃやだもん」
「んーしょうがないなあ、……じゃあ図書館の帰り道で望のためのリップを買って帰ってこようか、それでどう?」
「買う、買ってほしい、ママみたいになるの。じゃあ行く、ねえママ早くしてよ望もう行きたいのになんでまだ準備してるの、早く、はーやーくー」
そう言って望は陽向の後ろをぐるぐる回って催促し始めた。こうなるとメイクにも集中できなくなる。陽向は最終奥義を使うことに決めた。
「分かったよちょーっと待っててね、望が上手に待ってられるならその間にテレビ付けてあげる」
そのテレビという言葉に望の顔が輝いたのが見えた。よし、いける。
「待てる! 望ちゃんと待つできるからテレビ見る!」
よしこれでとりあえずメイクできる。テレビもそんなに見せたくはないけど仕方ない、これで今日の分だ。
そう言ってテレビを付けるといつもの子ども向け番組をやっていて、望はニコニコしながらテレビの中の子ども達と一緒に踊り始めた。
「ママ見て、望踊ってるの! 望踊り好きなの」
「望すごいね、ママよりきっとずっと上手だよ。ちゃんと待てて偉い子だね」
「望偉いの! 踊るの!」
陽向急げ、これが終わる前にメイク済ませないと望が今度は泣き始めるぞ。そうしたらもう外出どころじゃなくなるぞ。
陽向は特急でメイクを済ませて望が踊り終わって満足げにしている顔を見て一緒に家を出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます