第66話

それからも陽向は毎日のように動画を回し続けた。望がつかまり立ちをした日も、歩き始めた日も陽向は喜んで奏斗に伝えた。


「パパにも見せてよ望、ほらたっちしてここまでおいで」


「ぱぱたっち」


「おおすごいよく喋る、でも違う、でも可愛いからこれはこれでいい気もする。……よし抱っこして、足付いたな。望、手離すぞ、代わりに手掴んでるからな、転びそうになったら抱き上げるから大丈夫だからな」


望はすこしよたっとしながら奏斗の手をしっかり握って立った。


「うわ陽向本当に立った、やばいなこの子かわいいな立ってても。……あ、座った。座ってるのも可愛い」


「すごいんだよ、毎日話しかけてたからかすっごくよくおしゃべりしてくれるの。ちゃんと何か言いたいときはママって呼んでくれるし、日に日に可愛くなっていくのこの子。……きっと美人に育つんだろうなあ。大人になるのも、見たかったなあ」


「安心しろ、俺が見てどんだけ可愛くなったか絶対教えるから大丈夫だ」と少しでも陽向がさみしそうにすると必ず奏斗は肩を抱いてくれた。


この子を見ていられるのはいつまでなんだろうなあ、私の目はどれだけ見えるんだろう。ちゃんと目薬刺してるし病院にも行ってる、それでもこの子が大きくなるのをこの目で見ることはきっと叶わない。大人になるまで、死ぬその瞬間まで見ていたかった、残念だな。

奏斗さんのことだって本当はもっと見ていたい、おじいちゃんになったらどんな顔になるのか見てみたい。でも諦めたんだ、仕方ない。


……でも私は仕事してたままだったら会えなかったこの子の時間を今一緒に過ごせてる。それってすごく幸せなことなんだ。それに奏斗さんもいる。


大丈夫、この子がどんなに綺麗になったかはきっと想像できる。そうじゃなくても絶対に教えてもらえる。


きっと望本人は美人になったなんて言わないだろうけど、きっと奏斗さんに似たら凜々しくて美人な子になる。私に似てくれたらそうだな、ちょっとは可愛くなってくれるかな。


応援してあげたいような子になってくれるかな。私みたいに、仕事に必死になったり愛せる人を見つけたりして幸せになれるかな。


全部分かったように、奏斗が「この子はきっと幸せになる、大丈夫だこんなに俺にも陽向にも愛されてるんだから」と言った。


「そう、だよね。目が見えなくってもこの子が話してくれたら私はそれを聞けるんだもんね。きっと嬉しそうな声で話してくれるよね、きっと幸せだよって教えてくれるよね」


「そうに決まってる、俺たちの大事な子だ。きっと幸せになる」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る