第65話
望の一歳の誕生には三人でホールケーキを買ってきてお祝いをした。初めてのケーキ屋さんに望はよだれかけをべちゃべちゃにしながらその甘い香りを堪能していた。
「まだ食べられないけど、これは望の一歳のお誕生日のお祝いだよ」
陽向がビデオカメラを望に向けると、奏斗が電気を消して歌いながらケーキを持ってきた。
「ハッピーバースデートゥーユー、ハッピーバースデートゥーユー、ハッピーバースデーディア望ー、ハッピーバースデートゥーユー、一歳のお誕生日おめでとう!!!」
「望フーってできるかな、ママと一緒にやろうね、せーの、フー」
望は陽向を真似してフッと軽く息をした。
ろうそくが消えて一瞬画面が暗くなって、電気が点いたのに画面がついてきた。
望は初めて見るケーキを前に目をキラキラさせていて、ごめんね、まだこれは望は食べられないよと言って奏斗と陽向がそれを食べ始めると大声で泣き始めた。
「また今度食べようね、望はこっちなら食べられるよ」「まま、ぱぱ」「甘えてきてもさすがにまだだーめ、望の体にはまだ食べられないんだよ、大きくなったら三人で食べような」
望の前には食べられる材料だけで作ったケーキが用意された。
望はまた目を輝かせて手をべちゃべちゃにしながらそれを食べた。嬉しそうにその手を上げて「パパ、ママ!」と言った。
「この子なんでこんなに可愛いんだろうね、奏斗さんにちょっと似てきたんじゃない?」
「俺は陽向に似てきたように見えるけどなあ、そういえば会社で林に『本郷さんに顔まで似てきたんじゃないか?』って言われたよ、俺が陽向に似てきたんなら最高だな」
「顔までって事はやっぱり前より優しくなったんだね、パワハラで旦那さんが訴えられる前でよかったー」
「おお陽向が入ってきた頃よりもかなり優しくしてるよ、会社で陽向の真似してると後輩がどんどんついてくるわ。もっと早いうちに気付くべきだったな、新人二人も辞めさせたのが悔やまれる。申し訳ない、どこかで無事に働いていることを祈る」
「今からでも遅くないよ、世界一かっこいいパパになるんだもんね」
「なる、俺と結婚したいって一回は必ず言わせてやるね」
「今の録画してるからね、言わなかったら大きくなってから笑ってやろうねー望」
「おい、消せ消せ」「だーめ、望の最初のお誕生日ごと消えちゃう」「……じゃあこれから絶対に言わせるから良い」
三人とも満足げな顔で笑った。望の最初の誕生日は最高の形になった。
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