第64話
そうして五ヶ月が経つ頃、その日も変わらず陽向は望に話しかけていた。
「今日は寒いね、ママは長袖だよ。望もちょっと寒いかな? 毛布掛けてあげよう。毛布ふわふわだよ。ふわふわが気持ちよさそうだね望、ぎゅーしてるもんね。気持ちいい顔も可愛いね」
毛布を掛けてやると望はきゅっとそれを握りしめて気持ちよさそうな顔をしていた。
「あうーー、……ま、ま」
「ねえ望今ママって言った?! 奏斗さん、今望がママって言ったよ! 撮れてるよね、最高の瞬間だよ。これ撮れるならやっぱり望と一緒にいてよかった。最初が保育園の先生じゃなくってよかった。望、もう一回言えるかな、マ、マだよ。望、マ、マ」
望は陽向に褒められて嬉しそうな顔をしながらもう一度、さっきよりもするっと言った。
「まま」
「うわー上手に言えたね望、パチパチだよ。ママ今すっごく嬉しいな。望にママって呼んでもらえてすっごく嬉しいよ。望かわいいね、望も嬉しいね。……どうだろう、パパも言えるかな? 挑戦してみようか。パ、パだよ望」
望は少しむっとしてしばらくしてから言った。
「……まま」
「んーまだパパは難しいか、ちょっと発音違うもんなあ。でもママはクリアです。さすが望だね。……って言うことでパパは帰ってきたら盛大に拗ねてパパをいっぱい練習させてあげてね!」
そこでビデオが切れた。
その日帰って来るなり陽向は奏斗に「望がママって言ったの!」と言ったし、やはり望がパパと言わなかったことに奏斗は拗ねた。
その日の夜から”パパ”の猛練習が始まったのは言うまでもない。
一週間もしないうちに望はパパを習得して奏斗をまた泣かせた。
「ちょっとパパ、次は望の結婚の時まで泣かないんじゃなかったの?」
「いやだってこんなの泣くに決まってるだろ、望がパパって言ったんだぞ。望、上手だぞ、パパだよ、そうそう、上手だ。望すごいな、天才になるぞこの子」
「きっとなるね、天才の鬼の娘だもんね」
「まだ鬼って言うか。これでも俺のところに新人がかなり来るようになったんだぞ、頑張りを見てもらえないのが悔しいくらいだね、こんなに変わったっていうのに」
「パパも頑張ってるんだって、すごいね望。かっこいいね」
「ぱぱ」
「そうだよ、世界で一番かっこいいパパだよ、望の事が大好きなパパだよ」
「望、パパは望のこと大好きだからな。絶対に望の味方だからな。愛してるよ、望。何にでもなれるぞ、何にならなくっても良いぞ、好きなこといっぱいしような望」
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