第58話
目を覚ましたとき、そこはいつも通りの部屋だった。
「わたし、「陽向! 起きたか、大丈夫か、どこも辛くないか、陽向さっきあのまま過呼吸になって意識なくしたんだ。その後から呼吸が落ち着いたから寝かせてたけど、病院行くか? 行くならすぐにでも連れて行く」
「だいじょうぶ、ちょっと手足が痺れるけどそのくらいで、でも私、もうこれ以上何かをしてしまうなら、もう生きていかない方が良いんじゃ、」またパニックを起こしかけた陽向を今度は奏斗が止めた。
「そんなことない、絶対にない。さっきは止めずに苦しませて悪かった。俺が最後まで聞かずに止めるべきだった。
陽向の目が見えてても見えなくなっても俺の愛する陽向なのは変わらない、何も変わらない。見捨てたりなんて絶対しない。俺は陽向の目が見えることに惚れたんじゃない、陽向の心に惚れたんだ。
俺はどんな姿の陽向のことも愛してるからそれだけは、それだけでもいいから信じてくれ。
それから仕事こそ難しいかもしれないけど、できることはきっとある。うちの会社は視覚障害者の受け入れもしてるからそっちに話せば良い。あれだけ仕事してきた陽向なら受け入れてもらえるはずだ。
見たいものがあるなら、見えるうちにどこにだって行ったらいい。望だって大きくなるのを見ていられる。少なくとも十歳までは見ていられるし、それ以降だって上手くいけば見られるかもしれない。十歳になったらこの子はきっと大人になる頃どんな顔になるのかだって分かる。
見えなくなっても大丈夫だ、俺が陽向の目になってやる、見えるもの全て、知りたいもの全てなんだって伝えてやる。望の顔だってどんな風か教えてやる。ずっと傍にいるしずっと愛してる」
「そうだ、写真を撮れば見えない部分だってファインダー越しなら少しは見やすくなる。これまで死ぬ気で仕事してきたんだ、陽向が見たいものをなんだって撮ったら良いし、陽向が見たいものだけを見て過ごしたら良い。大丈夫だ」
私はこんなになっても捨てられないんだ、そう思うとまた涙が頬を伝った。見たいものを見て過ごしたらいい、奏斗はそう言った。それなら最期まで見ていたいのは、
「私、最期まであなたを見ていたい。あなたと望を目に焼き付けて、それから見えなくなっても、それを絶対に忘れないように生きていきたい。愛してる、だから最期に見るものはあなたと望がいい。わがままだけど、許して欲しい。私仕事辞めて望と一緒に時間を過ごしたい」
陽向は残された十年で、愛する家族を見ることを決めた。
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