第50話
陽向と奏斗の子は特に大きな問題もなく予定日に無事に生まれてきて大きな泣き声を上げた。
陽向は安心とその子への愛で涙をこぼした。それに、その日陽向は二回目の奏斗の泣き顔を見た。
「かわいいね、望、この子が望。望、聞こえてるかな、はじめまして。私がママの陽向でこっちがパパの奏斗さんだよ、ママのおなかの中はどうだったかな。……かわいいねこの子。きっとここにいるどの子よりもかわいい」
「ああ、かわいい、……かわいい、ありがとう、これまで辛い時間に耐えてくれて、産んでくれてありがとう。望、パパだよ、望」
「ちょっと奏斗さん私より泣いてるじゃない。滅多に泣かないのに。……でもこちらこそたくさん考えてフォローしてくれてありがとう。じゃあまたもう少し元気になったら会おうね」
そう言って数週間入院してから陽向は慣れた家に望を抱いて二人で帰ってきた。奏斗は仕事の用事でどうしても迎えに来られなかったので、その日は仕事が終わってから走って帰ってきた。陽向におかえりと言われてその姿にまた涙が出そうになった。寝室に用意したベビーベッドには望が寝ていた。そっと覗く。
「生まれたとき見た姿ともう全然違う、陽向に似てるんじゃないかこの目とか」
「さすがにまだ分からないよ、でも女の子はお父さんに似たら可愛くなるって言うからパパに似るといいね、望」
「パパか……分かってたけどそれでもなんか感じるものがあるな、ママ」
「私も奏斗さんにママって呼ばれると不思議な気分。ちょっとくすぐったい感じ」
「無事に育っていい大人になるといいな、幸せになって欲しい」
「そうだね、幸せになって欲しいな。……でもいつか結婚するときが来たらパパが許してくれなさそう」
「許すわけないだろうが、俺よりいい男を、少なくとも俺より働ける男を探してこい」
「今ものすっごいハードル上がったよ、世界中探さないといけないくらいハードル上がったよ。私としてはこの子にも恋愛とか結婚の幸せを知って欲しいんだけどな?」
それは奏斗も同じだったようで黙り込んだ。早くもこの子を手放すのが惜しくなったような奏斗に、思わず陽向も笑ってしまった。
「きっとパパが大好きな子になるよ、大丈夫」陽向は確信してそう言った。
「そうであって欲しいがな、俺は鬼の子だそうだから」奏斗はこんな時になると全く自信がないようで、弱気な声で言った。
「うちではちゃんと人の子だよ、優しい旦那さんだよ。私の見つけた大好きな人だよ、だから大丈夫。奏斗さん、ありがとう」
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