第48話

陽向はつわりが落ち着いてからは産休が取れる期間までまた会社に戻ってバリバリと働いていた。


外に営業に出ることだけは奏斗の心配と会社の理解があってなくなったが、陽向が戻ってきたことで大量の仕事がどんどんと捌かれていって、後輩達は宗教を作る勢いで陽向のことを尊敬していた。


心配が過ぎることはたまにあったものの

お互い公私混同をしないことは結婚してからも変わらず、二人とも順調に成果を出していた。


陽向はその頃には昇進して奏斗と同じ役職に就いていた。やっと追いつけたか、と思うとそれも嬉しくて陽向の仕事の処理速度はそれに応じてどんどん早く正確になっていった。公私混同どころか奏斗がいることで仕事が恐ろしく早くなっていた。奏斗も陽向が元気になって戻ってきたことで安心して仕事を取ってくるようになっていた。そういった意味では陽向のつわりが酷かった時期には奏斗は公私混同をしまくっていた。だが今ではお互いがいるからこそ安心して仕事ができるという相乗効果が生まれていた。


「本郷先輩、お忙しいところすいませんがこちらの資料確認して頂けますか」


「いいよ今手あいてるし。ちょっとだけ待っててね、確認したらあとで持って行くから」


と鬼上司だった奏斗とは全く違うタイプの陽向に人は集まったが、それに奏斗は少し妬いているようで後輩が来る度に威嚇するような顔をしていた。


奏斗は営業先を見つけてくるのが上手く、陽向はその営業先との仕事を進めるのが早かったため二人の仕事の仕方は多少異なっていた。それにもかかわらず奏斗の後輩も大抵は陽向のところに行くようになっていてそれも奏斗を不機嫌にさせた。


「ちょっと人望がないんじゃないですか岩崎さん?」


「本郷さんは後輩が集まってくるようで何よりだ、こっちには営業先が集まってくるもんで悪いが今のところ全く困ってないね」


「それなら何よりですけど社内の人間に信頼されないと自分の仕事が回らないことはご存じですよね?」


「ああ、そうだな」


と認めた彼の顔は少し負けを認めたような悔しい顔をしていた。言い負かしても追い越したとは思わなかったが、隣に並べる自分でいることが嬉しかった。


むしろ今になってみたら追い越すなんてことよりも信頼し合って仕事ができる今の状態が一番の幸せだった。


陽向は後輩からの相談を受けても尚余裕のあるレベルの働きぶりで重宝され、上からも寿退社はなんとか、と頼まれていた。

陽向は尊敬する夫の傍で、隣で働けることを誇りに思っていたので転勤がないことを条件にしてそれを快諾していた。

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