第47話
それからしばらく経ってようやく陽向のつわりは少し落ち着いたようだった。
心配なので陽向のことは休ませたまま、それでも少し安心して奏斗は会社に通えるようになっていた。
「おかえり奏斗さん、今日は大丈夫だったよ、お昼ご飯も食べられた」
「そうか、それなら何よりだ。あんまり無理はしないでくれよ、なにか万が一のことがあったらと思うと俺の心臓に悪い。外で事故に遭ったりしたらと思うと仕事にも手が付かん」
「大丈夫だよ、通院以外の外出は控えてるから事故とかも心配ないよ、当面の間は。また会社戻るときは奏斗さんがいてくれるだろうし。何よりご飯も食べられるから、ご飯のありがたさも分かったし。やっと好きだったはずのものがかえってきた、トラウマになるところだった」
と言いながら陽向が目の前をパチッと叩いた。
「どうした、何かあったか?」
「ん、いや今日? 昨日かな、それくらいから蚊がずっと家にいるんだよね。さっきからずっと捕まえようとしてるんだけど全然捕まってくれない。逃げ足の速いやつだ、私田舎育ちだから捕まえるの上手い自覚あるのに」
「俺には見えなかったけどな、まあそういう季節にはなってきたし、俺に昨日のうちについてきたんじゃないか」
「一日窓開けてないから多分そう。奏斗さんに見えないってことは女好きの蚊なんだ、それか若い血を好むんだ。そんなおじさんみたいな蚊に私の血なんてやるかっ! 全く常務じゃないんだから。いいか、私の栄養は全部赤ちゃんにあげるの! 早いとこ捕まるか出て行けっ、出て行くときはすいませんでした血は吸わないでおきましたお邪魔しましたって言え!」
そういう陽向は前よりもずっと顔色もよかったしふらつきもしていなかったので、少し安心した。何より食べられなかった期間を知っているので目の前の陽向がバクバク食べているのが嬉しかった。「さすがに食べ過ぎるのもよくないぞ」と言いつつも陽向の様子を見て安心していた。
陽向との間の子が女の子だと言うことが分かってからは、仕事をする勢いで毎晩陽向が寝た後に暗い部屋の中で名前を考えていた。
陽向に朝そのリストを見せては「また深夜までやってたの? 奏斗さんだってお仕事忙しいんだから無理しない、よく寝る! 今稼げる人がいなくなったら大変なんだからねうち」と言われつつも幸せな気持ちをかみしめていた。
陽向もなんだかんだ日中のうちにリストの中から好きな名前を見つけては、「この中ならこれ!」と毎日報告してきていた。
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