第45話

帰って来るなりこれ以上なく真剣な顔をした妻に「大事な話があるの」と言われ、自分が何をやらかしたのか考えを巡らせてみるも何も覚えがない。あるとすれば、


「陽向が前買ってきた抹茶のアイス食べたこと怒ってるか……?」


「え? あれ食べたの?! あれ期間限定でもう売ってないんだよ奏斗さんのバカあほ、もう嫌いになっちゃうからね、食べるの楽しみにして仕事頑張ってたのに」


「違うのか、じゃあもう分からん。……悪いが俺が何をしたのか教えてくれ……ください」


しばらく無言の時間が続いた。俺は何をした、一生を誓った相手に見捨てられたらさすがに三十路に入っていたとしても五歳年上だとしても許しを請うしかない。さすがの俺でも陽向に捨てられたら泣く自信がある。


よく見てみれば目の前の妻の指に渡したはずの指輪がはまっていない。ということはもう引き返せないと言うことか、それほどのことをしたのか、いつだ。何が悪かったんだ。せめて謝らせてくれ、せめて何が悪かったのか聞かせてくれ。別れるんだとしてもそれすら教えてもらえなければそれほどに信頼を失ったということだ。




でも陽向からの言葉はそれではなかった。それが故にノーガードだった部分にクリティカルヒットした。


「あのね、六週間だって」


「……え? なんて言った今、」そう言った奏斗の手を陽向はおなかに持って行った。そのおなかに二人で手を当てる。


「だから、ここに。赤ちゃんがいるの。それが伝えたかったの。怒ってるわけじゃないよ。アイスはちょっと怒ってるけど」奏斗はまだ不安だった。まだ陽向が何を言っているのか理解し切れていなかった。


「でも指輪、」「ああ、ごめんね、指がむくんで外れなくなりそうだったから外してこっちにしたの。服の外だと落とすのが怖かったから見えないところにしてて。ごめんね、不安にさせたね」


そう言って陽向は首元のチェーンを引っ張って指輪が二つ通されたネックレスを見せてくれた。


「私との赤ちゃん、いるんだよ、……産んでも、良い?」


「良いに決まってるだろ、ありがとう、ありがとう」と言って奏斗は陽向を抱きしめた。これまで一度も見たことのない涙が見えて、喜んでくれるだろうことは分かっていたはずなのに安心して陽向も涙を流した。


二人の間に新しい命が生まれた。


「頭痛かったのもこれだったのかも」と言う陽向に奏斗は安心してまた陽向を抱きしめた。そのまだ薄いおなかの中に自分の子どもがいるのかと思うとなおさら愛おしくて仕方なかった。

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