第44話

夫婦生活は順調に進んでいた、つもりだったが陽向は大変なことに気付いてしまった。


指輪が抜けない……指輪が抜けない?! っていうことは私式の時から太った?! しかも指輪が抜けないほど太った?! それって体重にするとどれくらい、いやでもそんなの見たら卒倒してしまうかもしれない。見ない方が幸せなものだってあるんだ。きっとそう、絶対見たくない。でも奏斗さんに体見られてるわけで、もしかして嫁が太ったって外で言われてたりしたら。最悪だ、そんなの考えたくない、せめて直に言って欲しい。


最近そんなに食べたっけ、ああでも仕事中に手軽だからカップラーメンとか何も考えないですすってる。それは確実に効いてきてる。


二十代も後半に入ったらさすがに代謝も落ちてるだろうし、それが響いたかな。あとは夕食は普通のはずなんだけどでも奏斗さんに釣られて毎日のようにお酒飲んでるし、それだってきっと毎日ジュース飲んでるようなものだし。体重戻せって言われてちょっと多めに食べてた節もあるしなあ、と思っているところに一つ思い当たるものがあった。


あれ、そういえば、……もしかして、まさかとは思うけどでもないわけじゃない……? だって、とカレンダーを見て思う。


その日林と会ってくると家を出ていた奏斗には連絡せずに家を出た。


まずはドラッグストア。ーーまじか、でもこれだけじゃまだ正確には分からない。そう思ってもう一度家を出る。


向かう先は、婦人科。もしかしたら。そうじゃなかったらただ私が太ったって事でショックだけどそれ以上にこれは大事だから。予約しなくてもここなら空いてるはず。


そう思って向かった先で告げられたのは予想通りの言葉だった。


自分で調べたのに言われた言葉を受け入れるには自分でも時間がかかった。でも、そうなんだ。じゃあ奏斗さんに伝えないと。


抜けなくなった指輪は糸で抜けるとサイトに書いてあったので抜ける今のうちに抜いてネックレスに通しておいた。服の下にしまっておけばきっと外で落とすこともない。


奏斗が帰ってくるのを今か今かと待つ。こんな日に限って遅いような気がしてしまって、早く帰ってこないかと何度も連絡が来ていないか確認した。まだ来ない、まだ来ない。いつもなら帰ってきてるのに、早く。その時に連絡が来た。


「今から帰る」そのメッセージを見て決心を固めて「待ってるね、無事に帰ってきてね」といつも通り返した。


私、奏斗さんに言わなきゃいけないことがある。絶対に伝えたいことが、ある。喜んでくれるか分からないけどでも、ある。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る